フィリピン、ミンダナオ島の戒厳令は続くのか?
フィリピン南部のミンダナオ島では現在、戒厳令が出された状態になっています。
昨年起きたイスラム武装組織とフィリピン国軍の紛争は一旦落ち着いてはいるものの、またいつ新たな武装組織が入ってくるかは分かりません。
今フィリピンでは戒厳令を解除すべきか、それとも延長すべきかが議論されているそうですが、どちらが本当に住民のためになるのでしょうか。
■戒厳令とは?
まず、戒厳令とはどんなものなのかご存知でしょうか。
戒厳令とは、英語ではmartial lawと呼ばれているもので、軍事法規の1つです。
暴動や自然災害などの緊急事態時に法律を一時的に無効化し、行政権・司法権の一部もしくは全部を軍の指揮下に移行することを言います。
戒厳令が出されている地域では、政府ではなく軍による統治が行われるということです。
また、裁判も軍の管轄となる場合があります。
クーデターが起きた時、民衆によるデモで政府が危機に陥った時、自然災害時、戦時中、政府が存在あるいは機能していない時などに布かれるのが一般的で、日本でも第二次世界大戦後の復興期に戒厳令が出されたそうです。
ただし、現行法では戒厳令にあたる法令は存在しません。
■戒厳令が独裁制を生んだ歴史
フィリピンで戒厳令の是非が問われている背景には、かつて故マルコス大統領がフィリピン全土に出した戒厳令によって、この国に独裁政権が生まれたという歴史があります。
本来は国民を守るために存在するはずの戒厳令が、憲法の停止という特権を政権に与えてしまい、社会活動家などに対して超法規的な弾圧を行うようになっていったのです。
マルコスが政権を握っていた20年間はフィリピンの歴史上「暗黒時代」とも呼ばれており、政情不安、経済不振によって国民は苦しみを体験しました。
このことからも、無闇に戒厳令を発布することや延長することに対しては、慎重になるべきだと考える人も大勢います。
誰もドゥテルテ大統領には故マルコス大統領時代のような悪夢を繰り返してほしくないのです。
レニ・ロブレド副大統領も、「マルコス時代を知らない若い世代は、戒厳令が政治的なものであるだけでなく、国民の生活にまで多大な影響があることを学んでほしい。」と話しています。
■実際に治安は改善されているのか?
戒厳令が出されているミンダナオ島の治安は、実際に良くなっているのでしょうか。
ミンダナオ島の島民からは「戒厳令のおかげで治安は安定しているので、解除しないでほしい」との声も聞かれます。
またいつ勃発するか分からない紛争に、軍が対応してくれるのは心強いと感じているようです。
ただ、大きなテロ攻撃や紛争は現在は起こってはいないものの、新しい武装組織がそこかしこで誕生しているのも事実です。
ここ最近はテロ組織のメンバーが相次いで逮捕されており、依然としてテロリストの侵入が続いていることも明らかになっています。
戒厳令のおかげで捕まったと言うべきなのか、それとも戒厳令が出ているにも関わらず侵入を許してしまっていると言うべきなのか、国民の間でも議論が分かれているようです。
ただ、戒厳令がなければテロ組織メンバーが捕まらなかった可能性は高いでしょう。
■ドゥテルテ大統領はどう考えている?
ミンダナオ島の戒厳令はすでに3回延長されており、2年間続いています。
期限は今年の年末までとされていますが、ドゥテルテ大統領は「地元民が望むのであれば、さらなる延長もありえる」と言明し、再度延長の可能性を示唆しました。
また、ドゥテルテ大統領は実は過去に、フィリピン全土に戒厳令を出すことも検討したことがあるのだとか。
彼は元はダバオの市長だったこともあり、ミンダナオ島には少なからず思い入れがあるはずですし、現在は娘のサラ氏がダバオ市長を務めています。
こういった背景を鑑みても、ドゥテルテ大統領が戒厳令延長には比較的積極的なのではないか、と推測されています。
■戒厳令は本当にテロ阻止に有効?
一方で、戒厳令はテロの阻止に有効なのかを疑う人々もいます。
彼らは、治安当局だけにすべてを任せるのではなく政府も協力すべきだという考えで、安易に戒厳令を延長することには消極的です。
■残り3ヶ月でどんな決断をするか?
賛否両論ある戒厳令ですが、一定のリスクは孕みつつも、ミンダナオ島の住民に安心感を与えているという点においては、効果を表しているのではないかと思います。
解除された瞬間にテロ組織が動き出さないとも限りません。
ドゥテルテ大統領を故マルコス大統領と重ねて見て、フィリピンはまた独裁政権になるのでは?と危惧する人々も多いようですが、当時とは状況も時代も違いますので、同じ末路を辿るとは思い難いです。
残り3ヶ月となった期限の中で、ドゥテルテ大統領がどのような決断に至るのか?
フィリピン国民のみならず、世界中が注目しています。