フィリピン、そして世界中の休校…これからの教育はどうなる?
新型コロナウイルス感染拡大防止のため、現在世界中の学校が休校しています。
3月から子供たちは家に閉じ込められ、勉強ができないのはもちろん、友達ともなかなか遊べないのがストレスになってきているようです。
多くの学校は宿題プリントを出したり、オンライン学習の導入を進めていますが、環境的に難しい国もあります。
今回は、フィリピンや日本をはじめとする休校中の教育に関する世界の取り組みがどうなっているかを見てみましょう。
■フィリピン
大規模な都市封鎖(ロックダウン)が行われているフィリピンですが、先進国のようにオンライン授業を導入するのはハードルが高くなっているようです。
なぜなら、インターネットの普及率が他国と比べて低いからです。
日本、韓国などは90%以上のインターネット普及率となっており、ネット環境がない家庭のほうが珍しいくらいですが、フィリピンではまだ60%程度にとどまっています。
オンラインで授業を受けたくても受けられない子供たちが大勢いるのです。
そのため、フィリピンでは複数の大学生団体が「#オンライン授業をやめて」という運動まで起こしています。
政府機関に要望書を出し、「貧しい学生や先生たちの負担となっている」と訴えているのです。
一部のネット環境のない学生たちは、最初はインターネットカフェに行こうとしましたが、ロックダウンの影響で今は閉まっており、必要な環境が手に入りません。
これではフィリピンですでに問題となっている教育格差が、さらに広がってしまいます。
貧しい人ほど教育の機会を失っているのです。
大学生たちの訴えを受けて政府期間は、オンライン授業のあり方を見直し、代わりの方法がないか検討するようすべての高等教育機関に指示しました。
さらにフィリピンでは、私立学校の教職員50万人が失業し、無給状態が続いているという問題もあります。
フィリピンの人々の多くは日給で生活しており、先生たちの生活も困窮し始めているようです。
■アメリカ
アメリカでも同様に3月から休校が続いています。
ある学校では、ウェブサイトに課題が掲載され、それを子供たちが各自こなす、というスタイルになっているよう。
その他、先生たちとテレビ電話を通じて授業を受けたり、時には体操が盛り込まれるなどなかなかのボリュームがあり、子供たちは休校だからといって遊んではいられません。
また、課題の中には親の手助けが必要なものもあるそうですが、親が外に働きに行っている家庭ではそれが難しいという問題もあります。
在宅勤務だとしても決して暇なわけではないので、本来学校で勉強してくれるはずの子供たちが家にいて、その勉強を見てあげたり相手をするというのはかなりの負担です。
アメリカはシングルマザーやシングルファザーなどのひとり親も多いので、ほぼ不可能な家庭も多くなっています。
さらに、アメリカでもフィリピンと同様に貧しい家庭にはインターネット環境がなく、オンライン授業が受けられない子供たちもいます。
地域によっては無料でタブレットを配布してインターネット環境を整備するサービスも行なっている模様。
■韓国
韓国でもまた、オンライン授業が積極的に進められています。
また、ネットだけでなく公共の放送局が教育省と協力して、テレビで授業を放送する試みもありました。
学年や科目ごとに先生がおり、学校と同じように時間割も作られているのだそう。
同時にチャット機能で生徒がその場で質問もできるようにし、家にいながらにして本当に学校の授業を受けているかのような環境を作り出しています。
これらの授業を同時配信するために、専用スタジオも10個用意したそう。
さらに、デジタル教科書や教育用の動画をウェブサイトで閲覧できるようにしています。
さすが、教育大国の韓国ですね。
■フランス
フランスでもオンライン授業のプラットフォームが存在し、インターネットを使った教育が進められています。
しかし、休校してから連絡がつかなくなった子供たちや、親が積極的に子供に勉強させない家庭も多く、学力に差がつき始めているのだそう。
また、インターネット環境のない家庭もあるため、先生が電話したり課題を郵送したりしているそうですが、このままでは教育格差が広がっていってしまうと懸念されています。
そのためフランス政府は、5月11日から順次休校措置を解除していくと発表しています。
■ニュージーランド
ニュージーランドもまた、インターネット環境がない家庭が8万世帯もあり、14万5,000人の子供たちがオンライン授業を受けられない環境にあることが分かりました。
政府はインターネットを無料で整備したり、ネットに接続するのが難しい地域に関しては、衛星を使った方法を提案するなどしています。
また、テレビでも教育番組を放送し、9:00〜15:00まで算数や理科、音楽などの科目が学べるようにしています。
ニュージーランド政府は今回初めて教育のために56億円もの緊急予算を投じたそうです。
■日本
インターネットの普及率が高い日本では、インフラ不整備が理由でオンライン授業が受けられない、という子供はあまり目立ちません。
しかしながら、ネット環境がありながらも、オンライン授業が実現できている自治体は全国でわずか5%程度なのだそう。
特に公立学校ではオンライン授業の予定すらないという学校がほとんどで、実施しているのは港区のみだそうです。
港区では学生にスマホを1台ずつ配布し、教師が教科書に沿って解説した動画をYou Tubeで限定公開しました。
なぜほとんどの自治体でオンライン授業ができないのか?
その理由としては、家庭環境の差のほか、セキュリティ上の問題や端末の用意ができない、オンラインで教えるノウハウがない、などが挙がっています。
また、日本の家庭は他国と比べて子供にインターネットを使わせることに抵抗がある親も多いそうです。
ただし、文科省としては、将来的にタブレット端末やPCなどを使ってオンライン学習システムを提供し、教員も成績評価までオンラインで出来る仕組みづくりを目指していると言います。
一部の大学ではZoomやTeamsなどのアプリケーションを使ったオンライン授業がすでに行われていますが、家にWi-Fi環境がない一人暮らしの学生も多く、わざわざ実家に帰った人もいます。
なお、小中学校では課題プリントを出しているところが多く、各自勉強するための環境は提供されているようですが、提出義務がなく結局勉強しない子供もいるようです。
そして、今心配されているのは彼らのストレスです。
友達に会えない、体を動かす機会が少ない・・などはもちろんのこと、突然家族と長い時間一緒にいるようになり、親との関係が悪化しているケースが多々あるそうです。
親は在宅勤務であっても仕事には集中しなければならず、子供の勉強を見てあげる余裕もなく、結果として子供につらくあたってしまう・・。
子供は子供で勉強でつまずいても聞く人がいないし、ゲームばかりしていたら怒られる・・といった感じです。
さらに、父親と母親が両方家にいて二人が喧嘩するため、一緒にいたくないという子供も増えているのだとか。
家庭以外の社会生活がなくなり、親も子供もストレスが限界に達しているようです。
■世界では40%がネット環境なし
国連教育科学文化機関(ユネスコ)によれば、世界では現在17億2,300万人が新型コロナウイルス対策の休校措置により学校に行けていない状態だそうです。
また、休校の影響を受けている世界中の子供たちのうち、40%以上がインターネット環境がないという推計を発表しています。
人数にして約7億600人で、このうち8億2,600万人は家庭にパソコンがないとのこと。
特に状況が深刻なのはアフリカ諸国で、特にサハラ砂漠より南の地域では、なんと82%の人たちがインターネットにアクセスできないのだそう。
この問題は今、「デジタル格差」として世界中が直面しています。
フィリピンでもそうですが、結局はお金がないことが教育機会の喪失につながってしまっているのです。
新型コロナウイルスにより社会のシステムは大きく変わろうとしていますが、学校教育も大きな変革を迫られているのではないでしょうか。