「訪問米軍に関する地位協定」を破棄したらフィリピンはどうなる?
新型コロナウイルス騒動のさなか、ドゥテルテ大統領が発表した「訪問米軍に関する地位協定」の破棄。
フィリピン国内では、破棄することによってフィリピンの安全保障が危ぶまれるのでは?と言われています。
■VFA破棄で中国の影響力が拡大する?
世界が最も懸念しているのは、フィリピンが「訪問米軍に関する地位協定」(VFA)を破棄することによって、南シナ海問題において中国がより影響力を増すのではないか、ということです。
現在は中国が身勝手な行動をとらないよう、アメリカの協力のもと中国をけん引してきましたが、VFAが破棄されればアメリカからのサポートはなくなり、フィリピンは中国の言いなりになってしまうのでは?と心配されているのです。
■VFAがなくなっても関係ない?
しかし、ドゥテルテ大統領はこれを否定しています。
VFAがなくなっても、中国がフィリピンに攻めてくるわけではないし、そこまで大きな影響は出ない、と主張。
ロレンザーナ国防相も「アメリカの支援がなくても、フィリピン軍は任務を全うできる」として、ドゥテルテ大統領を支持しています。
また、アメリカのトランプ大統領も、「VFA破棄は経費の節約になる」と発言していて、特に深刻には捉えていないようです。
しかし、フィリピンとアメリカの関係の冷え込みを危惧する声も高まっています。
アメリカのエスパー国防長官は「間違った方向だと思う」と発言し、ドゥテルテ大統領に再考を求めています。
■なぜ破棄を決めたのか?
そもそもなぜドゥテルテ大統領はVFAを破棄しようと決めたのか?
最も大きなきっかけは、ドゥテルテ大統領の側近であるデラロサ上院議員が、アメリカでビザ発給を拒否されたことにあります。
デラロサ上院議員はドゥテルテ大統領が推し進める麻薬撲滅キャンペーンを支持している1人であり、麻薬戦争を人権侵害だと批判するアメリカで、入国を拒否されたのです。
ドゥテルテ大統領はアメリカのこの対応に腹を立て、VFA破棄に踏み切ったと言われています。
また、この他にも、「米兵に偏った特権が与えられている」「米兵がフィリピンで罪を犯してもフィリピン側が裁けないのはおかしい」といった、不平等さも理由だとしています。
■中国は野放しになるのか?
フィリピンのVFA破棄は、中国にとっては好都合です。
フィリピンとアメリカの関係が悪化すれば、南シナ海においても自分たちの存在感をより高めていくことができます。
しかし、実はアメリカは、南シナ海において中国にプレッシャーをかけていく姿勢はこれからも変えるつもりはなさそうです。
フィリピンをサポートしないとしても、中国を野放しにはしないということ。
そのため、VFAを破棄してもフィリピンが極端に不利な立場になったり、安全が脅かされたりすることはないのでは、とも言われています。
■本当の目的はVFAの一部改定?
VFAは、破棄が通知されてから180日後に失効になります。
この180日間の間に、南シナ海問題でフィリピンと同様に領有権問題を抱えるマレーシアやベトナムも、フィリピンのVFA破棄撤回を求めてくるかもしれません。
もしかしたらドゥテルテ大統領は、VFAを完全に破棄したいわけではなく、最初から一部改定を狙って今回の発表を行ったのでは?とも見られています。