フィリピン人の銀行口座、送金、借金事情
日本人で銀行口座を持っていない人は、おそらくほとんどいないのではないでしょうか?
それどころか1人で3つ4つの口座を持っているのも普通ですよね。
給料の受け取りはもちろん、送金するにも貯金するにもクレジットカードを持つのにも、銀行口座なしではもはや生活は成り立ちません。
しかし、フィリピンでは真逆で、銀行口座を持っている人はほんの僅かです。
国民の8割は持っておらず、口座を作ろうとしたこともなければ、ATMを利用することもありません。
■預けるお金がそもそもない
フィリピン人が銀行口座を持たない最たる理由は、まず預けるお金自体がないということです。
貯金という概念がほとんどないので、手元にあるお金をそのまま使えば良いだけなのです。
給料が低いため、生活するだけで精一杯で貯蓄する余裕もないですし、”宵越しの銭は持たない”精神を持っているので、欲しいものがあればお金をどんどん使います。
未来のことは一切考えずに使ってしまう習慣があるため、フィリピンでは給料を月に2回に分けて支給することになっているくらいなのです。
フィリピンで貯蓄をしている世帯は37.5%、そのうち銀行に預けている人はたった25.1%です。
しかも、そのうちの6割は5,000ペソ(約1万円)程度しか預けていません。
ちなみに日本人の平均貯蓄額は、30代を例にした場合、単身者で317万円、二人以上の世帯で660万円となっています。
先進国の日本と比べるとその差は歴然ですが、実は発展途上国全体でも平均54%の国民が銀行口座を保有しているというデータもあり、フィリピンはずば抜けて低いことが分かります。
■銀行口座の維持費が払えない
フィリピン人は平均的に、銀行口座に預けるお金がないだけでなく、口座の維持費も払えません。
日本の銀行は1円預けるだけでも銀行口座を作ることができますが、フィリピンの銀行には最低預金額というものがあり、たいていはその金額すら持ち合わせていないのです。
最低預金額は2,000ペソ(約4,000円)ほどで、日本人でこれが払えない人はほぼいないと思いますが、フィリピン人にとっては5日分くらいの給料にあたります。
明日ご飯を食べるお金もギリギリ捻出しているような彼らが、5日分の給料にあたる金額を銀行に常に預けておく、というのは簡単ではないのです。
そして最低預金額を下回った場合、口座を維持するための手数料が引かれます。
そのまま放置すれば毎月どんどん手数料が引き落とされ、気づけばゼロになって、いつの間にか口座は自動的に解約されてしまうのです。
実際、銀行に預けておいたお金が知らないうちに全部なくなっていた、というフィリピン人も少なくありません。
このような条件では、少額でも貯金しよう、という気持ちも起こりませんね。
■銀行口座が必要ない
日本では給料支払いは振込がほとんどなので、銀行口座がないと受け取ることができませんよね。
しかしフィリピンでは現金で受け取る仕事が多く、銀行振込を採用しているのは大企業のみです。
そんな大企業に勤めることが出来るエリートは、当然銀行口座も持っている、というわけなんですね。
その日暮らしをしている貧困層のフィリピン人には、そもそも銀行口座を作る必要すらないのです。
また、公共料金の口座引き落としなども浸透しておらず、銀行口座がなくて困ることが特にありません。
■クレジットカードも持っていないフィリピン人
フィリピン人は銀行口座を持っていない人がほとんどのため、クレジットカードも普及していません。
大きなショッピングモールであっても、使えない店舗が多数あります。
コンビニやスーパーでも使えないところが多いですし、使えるところでも使う人は見かけません。
たまにカードで決済しようとする観光客がいると、店員が慣れていないため処理の仕方が分からず、ものすごい時間がかかることもあるくらいです。
フィリピンへ旅行に来る際は、ホテルや高級レストランを除いては、どこも現金での支払いが必要になるということを覚えておいてください。
■東南アジアで最もATMが少ないフィリピン
フィリピンのATMは日本のものと比べるとひどいクオリティで、現金が出てこない、キャッシュカードが戻ってこない、引き出し限度額が低すぎる、しょっちゅう故障するなど、毎回ちゃんと使えるかどうかヒヤヒヤしてしまうくらいです。
それに加え、フィリピン銀行協会の発表によれば、フィリピンの銀行ATM設置数は、東南アジアで最低レベルなのだそう。
人口10万人あたりの設置数が、タイ94機、シンガポール49機、マレーシア45機、インドネシア40機となっていますが、フィリピンはなんとたった20機!
現金の充填作業やセキュリティ対策、問い合わせ対応など、ATMの設置にはさまざまな手間や時間がかかり、台数を増やすと銀行側が対応しきれないのだと言います。
2013〜2019年までの6年間はATM利用手数料引き上げを禁止されていたこともあり、この間の設置数は伸びなかったとのこと。
ただ、経済成長に伴い今後は銀行口座の保有者が増加することも予想されているため、ATM台数も増やしていく方針のようです。
■送金はビットコイン
銀行口座の保有率は徐々に伸びてきてはいるものの、まだまだ2割程度と少ないフィリピン。
代わりに伸びているのが、ビットコイン市場です。
フィリピンにはOFWと呼ばれる海外出稼ぎ労働者が大勢いて、海外からの送金を日々受け取っている状況ですが、その際に利用されているのが銀行ではなくビットコインなのです。
銀行を利用するよりも手数料が安く、しかも早いため、非常に効率的な送金方法として浸透してきています。
ビットコインはスマホさえあれば誰でも利用でき、送金会社まで足を運ぶ必要もなく、維持費もかかりません。
いつでもどこでも好きな時に送金できる、フィリピン人にはぴったりのツールです。
仮想通貨による送金はどんどん拡大してきており、今後もフィリピンでは飛躍的に市場が成長していくことが予想されています。
■質屋を使った送金
フィリピン人がビットコインよりも前からずっと送金に使ってきたのが、質屋です。
フィリピンでは「Pawn Shop」と呼ばれており、フィリピン国内に16,000以上あります。
銀行口座を持っていないフィリピン人はみんな質屋へ行き、送金手続きをします。
流れはこんな感じです↓
①自分の住所・名前・送金額・受取人の情報・受け取り先の質屋を明記してお金を預ける
②受取人は、指定された質屋にIDカードを持っていくと送金されたお金を受け取れる
単純明快、しかも銀行より手数料も安いため、フィリピンではメジャーな送金方法です。
田舎にも質屋はあるため、わざわざ都市部まで行かずとも手続き出来るのも大きなメリットとなっています。
これでは銀行口座はますます不要だと感じるでしょう。
ちなみに普通に質屋としての機能もちゃんと持っており、物品を担保として預けてお金を借りる人も多くいます。
■高利貸しの「ファイブシックス」
お金を貯めることを知らず、手元にあればすぐにすべて使い果たしてしまうフィリピン人にとって、借金は日常的です。
何か緊急でお金が必要になった時には、まず親戚や友人に貸してくれる人がいないか探します。
それでもダメな時には、「ファイブシックス」を利用します。
ファイブシックスとは、「ボンバイ」と呼ばれるインド系の人々がビジネスにしている高利貸しのことで、「5借りたら6返す(つまり20%の金利)」というシステムになっています。
たとえば1,000ペソ借りた場合、返さなければいけないのは1,200ペソ。
日本の闇金よりも高いと言われていますが、実はフィリピン人の貧困層にとってはなくてはならないものとして浸透しています。
その理由は、毎日少しずつ返す、という仕組みになっているから。
日本でお金を借りれば、金利付きで翌月にまとめて返すのが普通ですが、ファイブシックスでは、1,000ペソ借りたら毎日40ペソずつ返して1ヶ月後に1,200ペソになるようにするのです。
返す金額はまったく同じですが、まとまったお金を貯めておけないフィリピン人にとっては、少額を毎日返すほうが簡単というわけです。
日本人の感覚からすればなぜそんな高い金利で借金をするのか理解できないかもしれませんが、フィリピン人はとにかく今日を何とか乗り切るので精一杯なので、需要に合ったサービスだと言えます。
審査も緩く、アルバイトだろうが何だろうが働いてさえいれば誰にでも貸してくれます。
しかし、この高い金利で貧しいフィリピン人から搾取している、という批判の声も少なくありません。
ドゥテルテ大統領も、就任当時にはファイブシックスを禁止することを公約の1つに掲げていました。
「ファイブシックスをやめなければ生き埋めにしてやる」といつもの過激発言も出ています。
そして実際、2017年1月にインド人の高利貸しグループが逮捕されました。
彼らは正規の届け出なしで貸金業をやっていたため、違法行為として摘発されたのです。
しかしこれは、ファイブシックスによって手元にお金がなくても欲しいものを買うことができる、と考えていた貧困層にとっては、決して喜ばしいニュースではありませんでした。
たとえ高金利でも、お金をすんなり貸してくれるファイブシックスは彼らの生活において非常に重要な存在なのです。
■フィリピンで広がりつつあるマイクロファイナンス
フィリピン人のほとんどが銀行口座を持てず、借金を重ねてしまう理由の根幹、それは貧困問題です。
ここを解決しなければ、銀行口座保有率も伸びませんし、経済発展のスピードも遅くなっていきます。
そこで近年注目されているのが「マイクロファイナンス」です。
マイクロファイナンスとは、貧困層に無担保で少額の融資を行い、彼らが事業を立ち上げ、貧困から脱出できることを目指す金融サービスです。
フィリピン政府も積極的に推奨しており、ファイブシックスのような高利貸しを利用せずとも、貧困層がお金を借りることができます。
銀行からの融資を受けられず自分でビジネスを行うことを諦めている貧困層も、マイクロファイナンスを利用すれば、自立する道が拓けてきます。
また、教育、健康、衛生のために貯金する手助けをし、資産を守ってくれるサービスもあります。
■これからの経済成長へ向けて
今経済が飛躍的に成長しているフィリピン。
金融サービスがもっと充実し、貧困層にも資産運用や事業運営のチャンスが与えられるようになれば、社会は大きく変化し、さらに発展が早まることでしょう。