ドゥテルテ大統領がマニラ湾を「5年で浄化する」
美しい海と自然豊かな島々をいくつも抱えるフィリピン。
首都マニラは都市化が進んではいるものの、マニラ湾はこれまで「世界三大夕日」の観賞地となっており、フィリピン観光では絶対に外せない名所として知られていました。
カクテルグラスを片手に真っ赤に沈む夕日を見る・・なんて本当にロマンティックですよね。
しかし、そんなマニラ湾では今、環境汚染が深刻化しています。
<実は以前から「肥溜め」だったマニラ湾>
沈む夕日は美しいのに、ひとたび視線を下ろしてマニラ湾を見ればそこには大量のゴミが。
水質の汚染もかなり進んでいます。
実はマニラ湾は、スペインに統治されていた16世紀以前から、交易の中心地になっていたことで汚染が始まっていました。
それに加え、外国人観光客が増えたためホテルが次々と建設され、下水処理対策が何もなされず、海には汚水がどんどん流れこみ続けたのです。
現在、マニラ湾の水は安全基準の3倍以上の糞便性大腸菌を含んでおり、悪臭もひどくなってしまいました。
これまでに、民間によるマングローブ植樹やマニラ湾清掃などの浄化対策が命じられたこともありましたが、実際には何も改善は進みませんでした。
<立ち上がったドゥテルテ大統領>
この状況を改善しようと、立ち上がったドゥテルテ大統領。
「2019年から1月から5年間でマニラ湾の環境対策をやり遂げる」と宣言しました。
環境天然資源省では、排水設備が基準を満たしていないと判明したホテルや国際会議場など17施設に対して閉鎖命令を出す方針です。
また、ドゥテルテ大統領は「下水処理施設などを整備しないホテルは閉鎖させる。冗談だと思わないほうがいい。」と宣言し、実際に飲食店などは閉店させられました。
廃止されることになった道路委員会の保有金450億ペソも環境対策に回すことなり、山のように積み上がるゴミの清掃も始まったということです。
そして、1月23日には汚水垂れ流しの筆頭とされていたマニラ動物園を閉鎖させました。
閉鎖された動物園の具体的な下水対策はまだ何も行われておらず、いつ再開できるかも未定ですが、動物の飼育費用はかかっているとのことで、現場で働く人々は頭を悩ませているようです。
<ボラカイ島は半年で環境改善>
ドゥテルテ大統領がここまでマニラ湾の環境改善に熱くなっているのは、同じように環境汚染が深刻化していたボラカイ島の浄化に成功したからでしょう。
ボラカイ島は、「ホワイトビーチ」という有名な白い砂浜を持ち、「世界トップ3の島」にも選ばれるほど人気の観光地でした。
しかし、観光客の数は増えても下水処理やゴミ処理に関しては長らく問題が無視されていたため、海には汚水が流れ込み、”汚水だめ”となっていました。
そのためドゥテルテ大統領は、2018年4月から10月まで6ヶ月に渡って島を閉鎖し、下水処理場の建設や違法建築物の撤去などを進め、その結果、大幅な環境改善に成功しました。
白い砂浜に散乱してしまっていた空き瓶や吸殻はすっかり消え、溢れかえる物売りもいなくなり、清潔で広々としたビーチが蘇ったのです。
ゴミも分別されるようになりました。
現在は、観光客数を制限しながらボラカイ島は再び稼働しています。
この実績があるため、ドゥテルテ大統領はマニラ湾も同じように綺麗にできるはずだと考えているようです。
<貧困住民問題>
マニラ湾の環境を改善するにあたって大きな問題の1つとなっているのが、貧困住民問題です。
湾にはパシッグ川など多くの河川がありますが、その周辺には実に12,000世帯もの不法占拠住民がバラック(掘っ建て小屋)を作って暮らしています。
また、約2,000もの家族が水上家屋または橋の下などに住居を構え、ゴミや排泄物を直接河川に投棄し、不潔で危険な環境を作り出しているのです。
しかし、仮に彼らがマニラ湾から立ち退きを余儀なくされたとしても、一体どこに転居すれば良いのか、何も具体的な対策は考えられていません。
<環境汚染はフィリピン全土の問題>
ボラカイ島やマニラ湾はドゥテルテ大統領の命令によって浄化作戦が進み始めていますが、環境汚染問題は実はフィリピン全土の問題です。
まだそれほど焦点が当てられていないパラワン島やセブのボホール島もまた、観光客の増加によって汚染は進んでいます。
フィリピン全土において、ホテルやレストランなどの観光施設から排出される汚水やゴミの具体的な処理対策を考えなければなりません。
現在、フィリピンの下水道普及率は首都マニラで15%で、フィリピン全土だとたった3〜4%です。
つまり、まだほとんどのエリアで汚水は海に垂れ流しだいうこと。
せっかくの美しい海や自然環境も、このまま汚染が進めばあと何年もつか分かりません。
観光だけでなく留学などで海外からの訪問者は増えるばかりですが、それに伴って早急なインフラ対策が必要となっています。
また、ゴミ問題も具体策が立てられないまま深刻化しています。
「スモーキー・マウンテン」と呼ばれるスラム街にあるゴミ山は、現在も有毒ガスを発生させているだけでなく、大火事の危険性や治安の悪化を生んでいます。
経済の発展という明るい面の裏側には、こういった環境問題や社会問題が数多く残されたままになっていることを、私たち日本人も認識しておくべきではないでしょうか。
<ドゥテルテ大統領に期待?>
ドゥテルテ大統領の多少乱暴に聞こえる発言や強権的な政策には反対派も多いです。
しかし、これまでいくつも「無理だ」と思われてきたことをやってのけてきた彼の実績を見れば、もしかするとマニラ湾浄化を5年で完了させることも可能かもしれません。
今回のプロジェクトを成功させれば、大統領として非常に大きな功績をまた1つ残すことになります。
ダバオの治安を劇的に改善したように、ボラカイ島を復活させたように、クリーンなマニラ湾もぜひ実現してもらいたいものです。