フィリピンと中国の関係、ドゥテルテ大統領の姿勢とは?
8割以上という高い支持率を長期間維持し、フィリピンの政権を握っているドゥテルテ大統領。
麻薬撲滅や汚職払拭、インフラ整備など、彼なりの政策が功を奏し始めている中で、こと対中国政策に関しては国民から不信感を買っているようです。
これまでに、中国とフィリピンの間には様々な問題が発生してきました。
南シナ海問題や不法移民問題などはその代表的なものです。
フィリピン国内では中国に対する批判が強まり、ドゥテルテ政権への不信感が強まるようなも起きています。
■南シナ海「当て逃げ」事件
最も最近起きたのが、南シナ海での「当て逃げ」事件です。
今月9日、領有権を巡って中国とフィリピンが対立している南シナ海で、フィリピンの漁船が中国船に当て逃げされて沈没。
中国船は、海に投げ出されたフィリピンの乗員22人を救助せずに逃亡し、彼らはベトナム船に助けられました。
この事件を受けて、フィリピンのパネロ大統領報道官やロレンザーナ国防相は「非人道的で野蛮だ」と中国側を強く非難。
故意に衝突したのでは?という見立てもあって、中国政府へ抗議するに至りました。
対する中国は、「漁船同士の事故であって政治問題にすべきではない」と主張。
では、ドゥテルテ大統領のリアクションはというと、「海上の事故にすぎない。調査結果を待とう」と中国側に寄り添うようなコメントをし、最終的には国防相も「単なる事故」と片付けました。
この結果を受け、フィリピン国内では政権に対する批判が強まります。
「漁民は、中国人だけでなく自国民にも見捨てられた」と皮肉られ、ネット上でも「弱腰ドゥテルテ」のトピックが大きく取り上げられました。
さらに、外務省前に国民70人が集まってデモをするという事態にまで発展。
ドゥテルテ大統領は中国に媚びている、と批判する声が高まりました。
■中国人留学生による「豆腐花ぶっかけ」事件
これは今年の2月にフィリピンで起きた事件。
フィリピンに留学に来ていた中国人女性が、液体の持ち込みが禁止されている地下鉄に「豆腐花」(豆乳のデザート)を持って乗ろうとしたので、警備員が「食べ終わってから乗るように」と指示しました。
しかし、女性はこの指示を拒否し、警備員は警察を呼ぶ事態に。
さらに、現場に来た警察官に「豆腐花」をぶっかけたため、逮捕されました。
英国BBCのロブレド副大統領は、「この行為は全てのフィリピン人を侮辱した」と女性を非難し、メディアで大々的にニュースになったのです。
フィリピン国内で反中感情が高まっている中では、このような小さな事件にも人々は敏感に反応します。
しかしこの時もドゥテルテ大統領は「個人的な事件であり、煽り立てるべきではない」と強調し、中国に対する非難コメントなどは一切ありませんでした。
■フィリピンに増え続ける中国人
上記のような事件が相次ぐ中でも、フィリピンにやってくる中国人は増える一方で、労働者も目に見えて増えています。
ドゥテルテ批判で有名な国内メディア「ラップラー」によれば、2018年にフィリピンを訪れた中国人は100万人。
10年前の16万人を大きく上回りました。
また、フィリピンに来る外国人観光客の割合も、中国人は15%で、10年前の5%から3倍に増えました。
■中国人はフィリピンで何をしているのか?
同じくラップラーによれば、フィリピンにいる中国人は、非常に様々な立場にいるそうです。
観光客はもちろんのこと、フィリピンで働く労働者もいれば、投資家もいます。
首都マニラを歩けば、以前よりも確実に中国人労働者が増えていることが実感できます。
フィリピンで働くにはAEP(外国人雇用許可証)が必要ですが、AEPを持つ中国人は今や2005年から2018年の間に24倍にも増えたとのこと。
その背景には、中国人同士の強い移民ネットワークがあります。
先代の中国移民が築き上げたコミュニティを使って、新しく流入してくる中国人もフィリピンで仕事を見つけやすくなったのです。
さらに、中国人の投資家も急増しています。
彼らが行なっているのは、不動産業、小売業、卸売業、ホテル業、オンラインギャンブル、娯楽業などです。
フィリピンの富裕層や、中国から来る観光客をターゲットにしています。
一部の政治家からは「中国人流入が地価上昇を招き、フィリピンの職を奪い、税収にも影響しているのでは?」という懸念の声もありましたが、これに対しフィリピンのベリョ労働雇用相は「外国人がフィリピン人の職を奪うような状況は起きていない」と述べました。
■中国がフィリピンに投資する理由
中国がフィリピンに投資する理由は、他でもなくフィリピン経済が順調に推移しているからです。
フィリピンのGDPは、直近で成長率5.6%に下がったものの、それでも投資家を魅了するにはまだまだ十分な数字です。
そして、何よりもドゥテルテ大統領が、中国人を積極的に受け入れているのが最大の理由でしょう。
中国人にとって働きやすく投資しやすい環境を作り、より多くの中国人が流入してくるよう促しているのです。
グロリア・アロヨ下院議長は中国との関係発展に賛成している一人ですが、彼女もまた中国人投資家がフィリピンで事業を行うことを推奨しています。
■ラップラーの考え
政府批判で有名なメディア「ラップラー」は、これらの中国人流入の事実を見て、「中国の投資家や観光客、長期間でここで暮らしていきたいと考える労働者に人種差別の感情を抱いてはいけない」と締めくくりました。
■不法労働者に対しては?
フィリピンには合法的に入ってくる中国人がいる他に、実は不法労働者も続々と入ってきています。
香港のフィリピン領事館によれば、現在フィリピンで不法就労している中国人の数は10〜25万人に上るとのこと。
これについてもドゥテルテ大統領は寛容な姿勢を見せており、「30万人のフィリピン人が中国で不法就労しているが、中国当局は彼を追い出すことをしていない。だから私も中国人労働者には出て行けと言えない」とコメントしています。
また、フィリピン議会が「外国人労働者がフィリピン人の雇用を奪っているのでは?」として調査をすると言った際も、「中国人がフィリピンで就労しているのは、フィリピン人が外国に働きに行っているからだ」と主張。
さらに、フィリピンのパネロ報道官も、「中国とフィリピン双方にとって有益なプランを検討したい。」、「フィリピンには熟練した中国人技術者がいる。彼らの仕事はフィリピン人にはできない。」と話し、不法就労に関しては今すぐ取り締まるつもりがないことを示しました。
■中国を称賛するドゥテルテ大統領
ドゥテルテ大統領は、中国を批判するどころか称賛したこともあり、それも話題となっていました。
先月彼は、フィリピンの就業率がここ十数年で最低となったのを見て、中国人から学ぶよう国民に推奨したと言います。
「我々は中国の進歩からかなり遅れている。中国人をよく見て欲しい。彼らの仕事効率は速く、本当によく働く。彼らは雷雨でも働き続けるのに、私たちは小雨でも肺炎にかかる」と述べて、笑いをとっていました。
■今後はどう統制を取るのか?
さまざまな事件や問題はあるものの、フィリピン経済の発展に中国の影響が非常に大きく関わっていることは事実です。
ドゥテルテ大統領も当面もところ、中国と争う気はないように見えます。
ただ、国内においてははやり反中感情を持つ人が多いのも事実。
世界からも、「中国に乗っ取られるのでは?」「なぜアメリカには強気なのに、中国に対しては言いなりなのか?」というフィリピン政府への批判があります。
今後フィリピン政府がどう統制をとっていくのか?そして実際にどう外交を展開していくのか?は、注目に値するでしょう。