フィリピンで増え続ける中国人労働者と外国で出稼ぎするフィリピン人
フィリピンと言えば「出稼ぎ大国」と言われるほど出稼ぎがさかんで、現在外国に働きに出ているフィリピン人の数は220万人以上にも上ります。
フィリピン人たちが自国ではなくわざわざ海を渡って外国で働く理由は、外国のほうが給料が高いからに他なりません。
フィリピン人の平均的な収入は、1日わずか800円前後と言われています。
いくら物価が安いとはいえ、この低賃金では生活は本当にギリギリです。
家族を大切にするフィリピン人は、親に送金するため、兄弟に学校に通わせるために、泣く泣く故郷を離れて少しでも多く稼ごうと必死なのです。
しかし、そんなフィリピンには現在、中国人労働者があふれているそうです。
もちろん就労ビザで合法に働いている人もいますが、中には違法滞在者も大勢含まれているようで、2016年の1月から5月の間だけで約312万人もの中国人がフィリピンへ入国したそう。
これは、ドゥテルテ大統領が中国に擦り寄り始め、規制を緩和したことに起因します。
しかし、正確な数は不明で、フィリピン政府がそれを把握していないことについて批判の声が上がっています。
そして何より、フィリピン人がどんどん外国へ流出しているのに、外国人である中国人労働者が増えていることに疑問が抱かれています。
フィリピンの失業率は5.1%なのに対し、中国では3.82%。
そしてフィリピンのGDP成長率は6.1%なのに対し、中国は6.5%。
これらの数字を見ると、フィリピンの労働者が外国へ出ていき、中国人がフィリピンで働くことはすごくナンセンスに思えます。
しかし、なぜ中国人は仕事が十分あるはずの自国を離れて、わざわざ発展途上なフィリピンへ働きに行くのでしょうか?
中国のGDP成長率を見れば、自国で働くほうがよっぽど稼ぎも良さそうです。
実は、ドゥテルテ大統領が考えているフィリピンのインフラ整備計画 ”Build, Build, Build” と、中国の「一帯一路構想」が今、アジア最大規模のインフラ建設ブームを巻き起こしているようです。
中国の建設会社はこの構想のために、自国の労働者をフィリピンへ送り込み、中国国内で働くよりも高い賃金を支払っているとみられています。
一方でフィリピン人も依然として自国で働くよりも外国で働く方が高い賃金を得られます。
こういった条件が、中国人のフィリピン出稼ぎ、フィリピン人の外国への出稼ぎという少し滑稽とも思える状況を生み出しているようです。
本来であれば、フィリピン人はフィリピンで働き、自国のインフラ整備に貢献するべきなのでしょうが、フィリピンの建設会社からはそこまでの高給が望めないのですね。
結果的に、中国人が中国の会社から給料をもらいながらフィリピンで働く、というおかしなことになっています。
また、こういった動きに伴ってフィリピンの高級コンドミニアムなどの不動産は中国人顧客にどんどん売れているそうです。
首都マニラの経済中心地となっているエリアには中国人居住者が急増し、火鍋などを提供する中華料理店が増え、ショッピングモールでは中国語の店内放送が流れるようになっています。
また、不動産を購入する中国人が増加するにつれて、その価格も高騰しています。
2016年頃から、フィリピンには10万人以上の中国人移住者がやって来ています。
そのほとんどはマニラ首都圏に住んでいて、不動産を次々と買い倒していっているようです。
中国人がフィリピンの不動産をこぞって買い占めていく理由は、単にフィリピンで働くためだけではありません。
フィリピンのカジノが中国人を引き寄せているのだそうです。
中国政府は、中国人がマカオのカジノでギャンブルをすることを規制しているそう。
そのため、今カジノ産業がさかんになりつつあるフィリピンへ出てきて、ギャンブルを楽しんでいる中国人も多いようです。
また、カジノ業界で働く中国人も増えています。
娯楽産業においても、フィリピンで働く方が自国よりも高い賃金を得られるのです。
確かに中国人にとってフィリピンで働くこと、フィリピン人にとって外国へ出稼ぎすることは、一見双方にとって何の不都合もないようも思えます。
しかし、フィリピンという国をフィリピン人がどう成長させていくか、という観点で見れば、このままだとどういう方向に向かっていくのか懸念が生まれてしまいます。
フィリピン人がフィリピンで働き、十分な収入があれば何の問題もないはずです。
彼らは決して、出稼ぎしたくてしているわけではないのですから。
中国人労働者をこのまま受け入れ続けることが正しいのか?
フィリピンのGDP成長率を出稼ぎ労働者に頼り続けても良いのか?
増え続ける人口をフィリピン国内で生かすことはできないのか?
インフラ整備を中国と一緒に行うことは正しいのか?
中国との外交、南シナ海問題はどう解決するつもりなのか?
そして、フィリピン国民の生活を根本から改善する方法はないのか?
などなど、これからのフィリピン政府には、中国との関係に関する多くの課題がまだまだ数多く残っているのではないでしょうか。