フィリピン麻薬撲滅戦争、現在の実態とは?
麻薬撲滅を掲げて立ち上がり、麻薬関連犯罪者を裁判にかけずに次々と殺害するという前代未聞の政策を強行するドゥテルテ大統領。
2016年の就任以来、この麻薬戦争によって様々な論争が巻き起こってきました。
■”超法規的殺人”
ドゥテルテ大統領が進める麻薬撲滅政策は、たびたび「超法規的殺人」だと非難されています。
「超法規的措置」というのは、国家が定めた法律などに規定された範囲を、国家そのものが超えて行う特別な行為のこと。
つまり、簡単に言えば、目的のために自分の国家の法律を自分で破ることを指します。
フィリピンの法律では、当然のことながら「殺人」は犯罪です。
しかしドゥテルテ大統領は、麻薬を撲滅し社会を根底から変革するためには、その「殺人」をも許可すると言っているのです。
しかも、本来ならばどんな容疑者でもみんな平等に裁判で公正に裁かれなければなりませんが、ドゥテルテ大統領はこれも無視し、麻薬犯罪容疑がかかった者は問答無用で殺す、というやり方を進めてきました。
フィリピン政府によれば、これまでに麻薬撲滅作戦で出た死者は約5,300人とされていますが、人権団体はすでに2万〜3万人の人々が殺害されていると主張しています。
さらに、麻薬密売組織や武装勢力とは関係のない農業労働者や人権活動家、弁護士なども弾圧されている実態も明らかになっています。
■国際刑事裁判所(ICC)の脱退
オランダのハーグに、国際刑事裁判所(ICC)と呼ばれる機関が存在します。
個人の国際犯罪を裁くために常設されている、国際裁判所です。
「国際関心事である重大な犯罪について、責任ある個人を訴追・処刑し、将来において同様の犯罪が繰り返されることを防止する」というのが目的です。
現在ICCとは世界の123カ国が締約しており、日本ももちろん含まれています。
フィリピンは、ICCを今年の3月に正式に脱退しました。
麻薬撲滅戦争をめぐって、ICCが違法な殺人に当たるかどうかの調査を開始したことがきっかけです。
ちなみにこれまでICCを脱退したことがあったのは、ブルンジというアフリカ中部の国だけです。
■独自調査を続けるICC
フィリピンがICCを正式に脱退しても、ICCは”脱退前の案件は調査できる”として、独自に調査を続けているようです。
ローマ規程では、締約国の脱退発効前に審議されていた問題は全て、脱退後もICCが司法権を有するとしています。
これに対しフィリピンのサバドール・パネロ報道官は「フィリピンがローマ規程の締約国だったことはない」と反発。
ドゥテルテ大統領もICCには一切協力しない姿勢を見せています。
■国連人権理事会による調査
しかしながら、国連人権理事会もまた、麻薬戦争の実態について調査するよう専門家に調査させ、その結果が今月明らかになりました。
殺害された人々の数を示し、「明らかに超法規的殺人が行われており、非常に憂慮する」と報告しています。
■麻薬戦争に効果はあるのか?
ドゥテルテ大統領は、麻薬を根底から撲滅させるためには現在の政策が有効だとして進めていますが、実際のところ効果があるのかどうかも、疑われ始めています。
本当に罪に問われるべきかどうか分からない人たちを含め2〜3万人が殺され、刑務所には容疑者が溢れかえり、更生させるための環境も整っていません。
このまま今のやり方を続けても、状況は改善されるどころか悪化するのでは?という見方もあります。
国民の中には「麻薬犯罪者ではなく、麻薬そのものを根絶してほしい」という声もあります。
■国民には支持され続けるドゥテルテ大統領
ただ、それでもドゥテルテ大統領が支持され続けているのも事実です。
街から犯罪者が減って平和になったと話す市民もいます。
ドゥテルテ大統領には、過去にダバオを”最も危険な街”から”最も安全な街”へと変えた功績もあります。
世界から強い反発が起こる中で、彼を救世主のように考えている国民も大勢いるのです。
そうなると、一体誰が正しいのかは分からなくなってきます。
政治は国民のためにあり、その国民が望んで彼を選んでいるのに、世界から裁かれるというのは、なんだか滑稽な状況にも見えます。
■麻薬犯罪の背景にあるもの
なぜ麻薬犯罪が起こるのか?
なぜ人々は麻薬を使用するのか?
問題の解決は、この根本的な部分を見ることから始めた方が良いのではないでしょうか。
麻薬に手を出す人々のほとんどは貧困層で、お金を得るためであったり、空腹を紛らわすために麻薬を使用しているのです。
ドゥテルテ大統領は、そういった人々の麻薬使用の背景まで見ているのかどうか分かりません。
単に「麻薬を使ったら殺す!」だけでは、その場しのぎの応急処置にすぎないような気もします。
それよりも、万人が十分な食料を手に入れることができ、学校に行けるような社会を作ることが、根本的な解決策になってくるでしょう。