フィリピンの国名、文化、言語と歴史的背景とは?
フィリピンは東南アジアの中でも他国と比べて西洋の文化が根付いています。
その理由は、フィリピンの歴史にあります。
この国は歴史上、1565年〜1898年の350年間スペインに、1898年〜1946年の50年間アメリカに統治されていました。
1946年に正式に独立してから70年以上経った今も、これらの植民地時代の影響が色濃く残っているのです。
<スペインから入ってきたキリスト教>
まず、フィリピンに来て気づくのは、フィリピン人にとってキリスト教が非常に重要だということです。
人口の80%はカトリック、10%はその他のキリスト教、そして5%はイスラム教徒となっています。
つまり、人口のほとんどはキリスト教徒なのです。
日曜日に教会へ行くのはもちろん、ショッピングモールやスーパーなど至るところで1日に2〜3回お祈りの時間のアナウンスがあります。
キリスト像やマリア像は、各家庭やタクシーの中、お店の中などにお守りのように飾られています。
欧米諸国よりも信仰心が厚く、日々の生活の根幹となっているのです。
フィリピンがこのように東南アジアで唯一のキリスト教国となったのは、スペインの影響です。
スペインに植民される以前は、フィリピン人は土着の宗教やインドネシアから入ってきていたイスラム教を信仰していました。
しかし、16世紀からはスペイン人によって改宗させられていったのです。
現在、フィリピンにおいてキリスト教は国教となっています。
クリスマスやイースター、ホーリーウィークなどキリスト教のイベントは盛大にお祝いするほか、離婚や中絶ができないといった厳しい面もあり、かなり敬虔な人々と言えます。
<地名や人名>
スペインの影響は宗教だけでなく、人名や地名にもあります。
たとえば、メトロマニラにある「パラニャーケ市」や「ラス・ピニャス市」はスペイン語由来の地名ですし、人名にも「サントス」や「ガルシア」、「トーレス」「クルス」などスペイン語由来の苗字が数多く存在しています。
また、名前に関しては聖書から引用されていることも多く、ジョシュアやアンジェラなどはキリスト教由来のものです。
<フィリピンで有名な「サンミゲル」もスペイン由来?>
フィリピンのビールといえば、「サンミゲル」です。
他のメーカーのものは見かけないくらい、サンミゲルが市場を独占しています。
実はこの「サンミゲル」も、スペイン語由来の名前です。
1565年にスペイン人がセブ島に作った町が「サン・ミゲル町」でした。
ちなみに同じ「サンミゲル」というメーカーのビールがスペインにも存在していますが、フィリピンのサンミゲル社とは資本関係は一切ないということです。
<食文化にもスペイン、アメリカの影響>
長年に渡ってスペインとアメリカに統治されていたフィリピンには、食生活にも強く西洋の影響が出ています。
フィリピン料理は肉が中心であり、その多くがかなり脂っこく、オリーブオイルやにんにくがよく使われます。
これは、スペイン料理に似ています。
それから、フィリピンでは「ジョリビー」をはじめとするファストフード店が大人気ですが、こういった文化はアメリカ由来です。
ただ、中国の影響も強く受けていることや、風土や気候に適合していることもあって、フィリピンの主食はお米です。
これらのすべての要素が融合して、現代の「フィリピン料理」が出来上がったのですね。
<スペイン語よりも英語が優位に>
350年も統治されていたにも関わらず、現在フィリピンで標準的にスペイン語を話す人口はほとんどいません。
その理由は、戦争で勝ったアメリカがスペインに取って代わったからです。
当時は残っていたスペイン語話者も20世紀を通してどんどん減っていき、第二次世界大戦のあとはアメリカから大量に英語教員が派遣され、英語が主要言語として教育の中心になりました。
そして1946年にフィリピンが独立してからも、英語はフィリピン語とともに公用語として定着しました。
一方でスペイン語話者は現在1%にも満たないと言われています。
<スペイン語の影響を受けた言語>
純粋なスペイン語を話す人口は現在フィリピンにほとんどいないものの、スペイン語の影響を強く受けた言語は残っています。
国語であるタガログ語もそうですし、ビサヤ語やイロカノ語、ビコール語には何千ものスペイン語単語が含まれています。
また、スペイン語と土着語が混ざって出来上がったクレオール言語であるチャバカノ語は、かなりスペイン語に近いです。
これらのフィリピン土着語を話す人々は、スペイン語話者ともある程度意思疎通ができます。
<植民地時代を彷彿させる国名?>
さて、そんなスペインやアメリカの影響を受けてきたフィリピンですが、近い将来国名が変更されるかもしれない、と話題になっています。
そもそも「フィリピン」という国名にスペイン語っぽさを感じますよね?
実は「フィリピン」という国名は、1542年にスペイン皇太子フェリペ(のちの国王フェリペ2世)にちなんで、スペイン人の征服者ルイ・ロペス・デ・ビリャロボスによって「ラス・フィリピナス諸島」と名付けられたことに由来します。
<新国名は「マハルリカ」に?>
現在、ドゥテルテ大統領はこれを「植民地時代の名前を使うのはおかしい」として、国名を「マハルリカ」に変えたいと訴えています。
以前、独裁政権を敷いていたマルコス元大統領も1978年に同様の提案をしていましたが、立ち消えになっていました。
「マハルリカ」はサンスクリット語で「気高く誕生した」という意味があり、フィリピン国家の主体性を高めるためにも、ドゥテルテ大統領は「いつか変えたい」と強い意向を表明しています。
実現するためには国民投票や法律の改定などさまざまな工程が存在するため、簡単にはいかないだろうと言われていますが、これまで強権的に政権を動かしてきたドゥテルテ大統領なら、そう遠い未来でもないかもしれませんね。
<フィリピンで西洋文化を見つけてみよう>
東南アジアの中でこれだけ西洋文化の影響を強く受けている国はフィリピンの他にありません。
また、文化のみならずラテン系のノリですぐに歌ったり踊ったりする陽気な国民性、のんびりとした生活様式にも、スペインっぽさを感じてしまいます。
かと思うと、流暢に英語とタガログ語を使い分ける知的な面も持っています。
そして、フィリピンのクリスマスの盛大さといったら、日本人には信じがたいレベルです。
なんたって、9月から12月まで4ヶ月も祝い続けるのです。
宗教、言語、地名、人名、食文化などなど、フィリピンではたくさんの西洋文化的要素を見つけることができます。
どれも日本、日本人にはないものばかりで本当に興味深いです。
歴史的、文化的な背景を知った上で旅をしてみると、普通の観光旅行とはまた違った視点で楽しめるのではないでしょうか。
そして今後、フィリピンの国名が本当に「マハルリカ」に変わるのか?は注目しておきたいところです。