フィリピン経済成長を支えるOFWとビットコイン
フィリピンの経済成長を支えている要素はいくつかありますが、中でもOFW(Oversea Filipino Workers:海外出稼ぎフィリピン人労働者)からの母国への送金は大きな比重を占めます。
失業率の高いフィリピンではなかなか仕事が見つからない上、学歴を持たない貧困層が就ける職業は給料が低すぎるため、家族の生活を支えることができません。
そのため、少しでも高い収入が得られる先進国へ出稼ぎし、そこで稼いだお金をフィリピンにいる家族へ送金しているのです。
OFWからフィリピンへの送金額は毎年280億ドルにも上っており、これはフィリピンのGDPの10%を占めています。
フィリピン政府も海外出稼ぎ労働を積極的に推奨しており、経済発展の基盤をOFWからの外貨流入に頼っている状態でもあります。
<送金手段として注目されるビットコイン>
そんな中、フィリピンで注目されているのが仮想通貨のビットコインです。
理由は、送金手数料が安いことにあります。
通常、銀行や送金会社を使って海外から送金した場合、5〜8%の手数料がかかります。
送金額が大きいだけに、この手数料もかなり大きなものです。
しかし、ビットコインを使って送金すると、かかる手数料はたった1%に抑えられます。
つまり、ビットコインを利用するだけで4〜7%も送金額が増えることになるのです。
これはフィリピンでお金を受け取る家族にとっても、フィリピン全体にとっても非常に大きな金額の差と言えます。
<ビットコイン送金に使われている「レビット」>
ビットコインの送金には銀行ではなく、ほとんどの場合「レビット(Rebit)」という送金サービスが利用されています。
マニラのマカティにオフィスを持つレビットは、多くのOFWが出稼ぎしている香港、中国、マレーシア、ベトナム、シンガポール、韓国、台湾、オーストラリア、カナダ、イギリス、アメリカ、インド、インドネシア、イタリア、クウェート、カタール、サウジアラビア、アラブ首長国連邦からの資金移動ができるサービスを提供しています。
<ビットコインでの送金は増加傾向>
そんな「レビット」を利用したフィリピン人からの送金はどんどん増加傾向にあります。
特に去年の後半から急激に増加しており、10月から月ごとに取引額が150%も増えていることが分かりました。
特に、13万人ものOFWが出稼ぎしている香港からの送金は、約5億ドルにも上っているとのこと。
10月から突然送金額が跳ね上がっている要因としては、フィリピンのクリスマス文化が大きく関わっています。
フィリピンでは9月〜12月という4ヶ月に渡ってクリスマスを祝う文化があり、この時期にプレゼントを買ったりクリスマスの準備をするため、個人消費が急増します。
そのため、母国でクリスマスを十分にお祝いできるように、OFWからの送金も活発になったということです。
また、フィリピン国内のビットコインユーザーも増えており、給料をビットコインで支払う企業も出てきました。
海外にいる雇用主がフィリピンにいる従業員に支払いをするなど、さまざまなケースでビットコインが利用されているのです。
<ビットコインの資金移動は早い&安い!>
ビットコインのメリットとして、送金から着金までの時間が圧倒的に短いという点があります。
通常、銀行を利用して海外へ送金した場合、2〜3日の日数がかかります。
送金会社の「ウェスタン・ユニオン」を利用した場合でも約1時間は必要です。
しかし、レビットを利用してビットコインで送金した場合、ほぼ即時で相手に着金します。
受け取る側としても、送金されてすぐに引き出せるのは嬉しいですよね。
また、上述したように手数料はたった1%なので、より多くのお金を送金することができます。
<ビットコインの送金はなぜ早くて安いのか?>
ビットコインを使うと早く安く送金できますが、その理由はシンプルで、中間段階を大幅にカットしているからです。
銀行などを使って送金すると、複数の提携銀行を介することになり、その度に人件費などを含む手数料が加算されていきますし、日数もかかってしまいます。
それがビットコインだと、送金者→レビット→受信者というシンプルなプロセスしかありません。
あとは、ビットコインを受け取った人が現地でペソなどの現金に両替するだけで良いのです。
<安価な手数料がフィリピンにとって好都合な理由>
手数料も安く、しかもスピーディに送金できることは、海外へ送金したい人々にとって大きなメリットです。
ただ、フィリピンでは安い手数料が余計に好都合な理由があります。
それは、OFWが月に複数回に渡って送金しているからです。
通常1ヶ月分のお金は月1回まとめて送金すれば良いと考えるでしょう。
しかし、フィリピンでは手元にあるお金を数日のうちに全て使い果たしてしまうという習慣があるのです。
これは、フィリピンで浸透しているキリスト教の影響もありますが、彼らは宵越しの金を持たないという精神を持っています。
未来のためにお金をとっておくことをしないのです。
そのため、フィリピンの企業は月2回の給料日を設けています。
1度に全て渡すと、後半の生活費がなくなってしまうためです。
海外で働くフィリピン人たちも、月に2回以上に分けて送金することで、家族が困らないように配慮しているのです。
しかし、送金手数料は送金回数を分ければ余計にかかってしまいます。
仮に銀行を使って8%の手数料がかかった場合、送金を月2回に分けるだけで16%も消えてしまうことになります。
これは送る本人も当然残念ですし、受け取る側も金額が減ってしまいます。
だからこそ、たった1%しか手数料がかからないビットコインは、フィリピン人に重宝されているというわけです。
<いつでもどこでも送金できる>
ビットコインは安く早く送金できるだけでなく、場所や時間を選ばないというメリットもあります。
仮想通貨がここまで浸透する前は、フィリピン人たちは送金会社まで現金を持って行って送金していました。
場所によっては送金会社のカウンターまで長時間バスに揺られなければならない場合もあり、手間も時間もかかっていました。
多額の現金を持ち歩けば、盗まれたりするかもしれないというリスクもあります。
しかも、送金会社の営業時間も決まっているので、送金する日は仕事を休むか早退しなければなりません。
当然、労働時間が減るので稼げる金額も減ってしまいます。
しかし、ビットコインではこれらのデメリットをすべて解消しました。
現金をどこかへ運ぶ必要もなく、安全に、しかも24時間いつでもどこでも、送金ができるようになったのです。
<フィリピン貧困層にも大きなメリット>
フィリピン国民の多くが銀行口座を持っていないことをご存知でしょうか。
フィリピンの銀行は、一定の金額を預けておかないと口座維持費がかかるという仕組みになっています。
しかしフィリピンの貧困層にそんな余裕はありませんので、銀行口座を持っているのは一部の上流階級のみなのです。
ですので、ビットコインが誕生する前は、人の銀行口座を有償で借りて送金を受け取る、という方法が取られていました。
つまり、ここでまた口座の貸主にお金を支払わなければならなかったのです。
しかも、その金額は20%〜30%という法外なものでした。
ビットコインはこの問題もあっさり解消しました。
銀行口座がなくても、送金を受け取ることができるからです。
<銀行口座がなくてもスマホがあればOK>
銀行口座がなくてどうやって送金を受け取るのかというと、ビットコインでは専用の「ウォレット」を持っていれば取引できます。
そして「ウォレット」はスマホがあれば持つことができるのです。
フィリピンではスマホ本体は非常に安価なものもあり、さらに月額を払わずに使えるシステムがあるため、所得の低い貧困層でも持っているのです。
ビットコインがフィリピン国内全体に急速に広まった要因として、フィリピンのスマホ保有率の高さがあると思われます。
<今後もビットコイン市場拡大が予想されるフィリピン>
フィリピンにおけるビットコインの存在の価値と、ユーザーが急増した理由についてご紹介しました。
日本よりも格段に早いスピードで仮想通貨はフィリピンに浸透していっています。
もちろん、送金手段としてだけではなく、通常の買い物で利用する人や支払いに使える店舗も増えてきました。
最近では不動産もビットコインで買える制度が出来上がっています。
不動産のような大きな買い物も通常は多くのベンダーを通し手数料が多額になるものですが、ビットコインで支払えばその多くをカットできるというメリットがあります。
日本人投資家をはじめ、フィリピンでビジネス展開や移住、資産運用を考えている人は、仮想通貨に関する情報を常にチェックしておくべきでしょう。
今後もフィリピンでその市場が拡大していくことは間違いありません。