フィリピンの刑務所がコロナ感染防止で1万人を釈放
フィリピンではかねてから刑務所の過密状態が問題視されていました。
特に状況がひどいのはケソンの刑務所で、収容人数800人のところに、4,000人以上がすし詰めにされています。
いわゆる「3密」に加え、衛生環境も劣悪という状態の刑務所内では、現在世界中で流行している新型コロナウイルスの感染がすでに確認されています。
最近は人権団体から、更なる感染の拡大防止と過密状態の緩和のため、非暴力的な犯罪による収容者や高齢者、病人といった入所者の早期釈放が必要だと言われていました。
■1万人の受刑者釈放
5月2日、フィリピン最高裁判所は、これまでにフィリピンの刑務所に収容されていた入所者延べ1万人近くを釈放したと発表しました。
釈放されたのは、保釈金が払えない、裁判を待っていた被告たちです。
フィリピンでは2016年にドゥテルテ大統領が就任し、麻薬撲滅政策が始まってからというもの、大量の犯罪者たちが刑務所に送られて来るようになりました。
そのスピードは半端ではなく、ドゥテルテ大統領就任後、わずか7週間で、3,600人から4,053人にまで増えたといいます。
確かに街からは麻薬犯罪者は減りましたが、代わりに刑務所が超過密状態になり、強硬的な政策の副産物だと批判の対象にもなっています。
■なかなか進まない裁判
しかし、収容されてからも裁判はなかなか始まりません。
フィリピンのお役所仕事が遅いことは有名ですが、司法手続きもしかりです。
何千人もの入所者が自分の裁判が行われるのを待っていますが、一向に手続きが進まず、中には何年も何年も拘置所で待ち続けている人も大勢います。
■感染症、暴力で毎年5,000人の死亡者
30人収容の監房に130人以上が押し込まれているようなパンク状態の刑務所内では、「ソーシャル・ディスタンシング」など守れるはずもありません。
新型コロナウイルスが流行る前から、肺結核などのさまざまな感染症が蔓延していました。
また、新型コロナウイルスに関しては入所者だけでなく職員も感染が報告されています。
寝る場所も確保できない受刑者たちは、隣の人と体がくっついた状態で毎日過ごしており、時には交代で屋外のバスケットコートで眠る人たちもいるくらいです。
また、暴力事件もたびたび起こっており、刑務所内で死亡する人が毎年5,000人以上もいると報告されています。
■汚職の蔓延
さらに、フィリピンの刑務所内では病気や暴力だけでなく、刑務官などによる汚職行為もはびこっています。
彼らは囚人から賄賂を受け取り、携帯電話やタバコ、時にはテレビなども提供しているのだとか。
また、日本ではまず考えられないことですが、中には専任のシェフを雇ったり、看護師を抱えているという受刑者もいるようです。
■セブの刑務所でコロナ感染者300人以上
フィリピンの刑務所の中でも、最も新型コロナウイルスの感染が拡大しているのは、セブ島にある2箇所です。
この2箇所に拘留されている収容者約8,000人以上から、5月1日時点で計348人の感染者が見つかっており、すでに死亡した人もいます。
最高裁は、今後も釈放者を増やす方針だとしています。
なお、フィリピン国内全体では、5月2日時点で8,928人の感染者、603人の死亡者が確認されています。
ここ最近はセブ市での増加が目立っているようで、感染者879人になりました。
暑くなってきていることもあり、コロナウイルスだけでなく熱中症にも注意するよう呼びかけています。