ドゥテルテ大統領の過去3年の政策と実績
2016年6月にドゥテルテ大統領が就任してから、早3年と4ヶ月が過ぎようとしています。
”フィリピンのトランプ”の異名を持つ彼は、良くも悪くも話題に事欠かない人物として世界から注目されています。
80%前後という国民からの高い支持率を維持しながら、すでにフィリピンに大きな変革をもたらしてきました。
■麻薬撲滅政策
ドゥテルテ大統領の政策で現在のところ最もインパクトがあるのは、麻薬撲滅政策でしょう。
彼は大統領に就任する前から、「この国には麻薬中毒者が300万人いる」とし、麻薬撲滅に対して強固な態度で臨むことを表明していました。
麻薬に関連する犯罪の容疑者は裁判にかけることなく殺しても構わないとし、就任後わずか1ヶ月で1,800件もの射殺事件が起こっています。
そして半年経った12月には、麻薬戦争による死者は6,000人を超えました。
この”超法規的殺人”は人権団体から激しい非難を浴びましたが、ドゥテルテ大統領は「人権に関する法律など忘れてしまえ」とコメントし、無視する方針を続けています。
また、フィリピン政府によれば、去年までに覚せい剤1,480kgを押収し、麻薬使用者の溜まり場242ヶ所を解体し、麻薬に関連していたとされる政府職員582人を逮捕したとのことです。
■腐敗警官、政治家の排除
ドゥテルテ大統領の超法規的殺人は、麻薬関連犯罪者のみならず、腐敗した警察官や政治家、外国人にも適用するとしています。
相手が犯罪に加担した国家警察だろうが、韓国人の麻薬売買や売春を行なった韓国人だろうが、犯罪を行う者は皆殺害すると警告。
また、自身の息子であり政治家のパオロ・ドゥテルテ氏が麻薬密輸関与の疑いが出た際にも「私の子供たちが麻薬にのめり込むようなら殺せ」と、一貫した犯罪者への対処方針を見せ、息子本人に対しても「お前が逮捕されるようなことがあれば、私はお前を殺した警察官を守るつもりだ」と発言しています。
これらの人権新開に対し、人権団体のアムネスティ・インターナショナルが虐殺を即中止するよう緊急行動要請を発表しているほか、国連人権高等弁務官事務所も「超法規的な処刑から国民を守るために必要な措置をとることを求める」という声明を発表していますが、ドゥテルテ大統領は聞く耳を持っていません。
それどころか、一時は国連の脱退をほのめかしたこともありました。
そして2019年3月には、超法規的殺人について調査を行おうとしていた国際刑事裁判所から正式に脱退しました。
■アメリカとの関係
ミンダナオ島にアメリカ軍が駐留していることもあり、ドゥテルテ大統領にはもともと反米感情があったようです。
当時アメリカ大統領だったオバマ氏を罵倒して首脳会談を欠席するなど、対米関係でも過激な行動を起こしてきました。
しかし、やはり”フィリピンのトランプ”と称されるだけあってか、2017年に就任したトランプ大統領とはウマが合うようです。
麻薬戦争を称賛されたり、2017年にミンダナオ島で起きたマラウィの戦いではアメリカの軍事支援を仰いで勝利し感謝を表明するなど、良い関係を築いています。
人権問題に関しては両国とも議題にしていないようです。
ちなみに二人は年齢も近く、ドゥテルテ大統領は1945年生まれ、トランプ大統領は1946年生まれとなっています。
■中国との関係
フィリピンと中国の間の最大の課題は、ご存知の通り南シナ海問題です。
これまでに「当て逃げ事件」や「航行の自由作戦」など、様々な事故や事件が勃発しています。
中国の度重なる強気な行動に、一時は「戦争も辞さない」と発言していたドゥテルテ大統領ですが、今は逆に「戦争は選択肢にない」としています。
また、エネルギー開発を共同で行うことを決めるなど、出来るだけ中国に歩み寄って双方にデメリットがないよう解決していく姿勢を見せており、最近の関係はかなり友好的です。
現在取り組んでいるインフラ整備や国のさらなる発展に際し、中国の支援がどうしても必要であることが大きいと思われます。
しかし一方で、この丸腰の態度に一部の国民からは批判の声もあるようです。
■ドゥテルテ大統領が支持される理由
麻薬撲滅キャンペーンをはじめとする大胆な政策を続け非難を浴びながらも、ドゥテルテ大統領はこれまで高い支持率を維持してきました。
国民の中には、単なる支持者だけでなくファンのような層も居て、カリスマ的な人気を誇っています。
その理由には、以下のようなものがあると考えられます。
■都市部の好景気
フィリピンは今目に見えて経済が成長しています。
特に都市部ではその変化が顕著で、中国人客を中心に不動産市場なども大きく拡大し、好景気をもたらしています。
フィリピンの一人あたりのGDPは2017年に2891.36ドル(31万円3,000円)を突破しており、国民の生活は豊かになってきているのです。
アメリカの調査会社が行なった調査によれば、「自国の経済は順調」と答えたフィリピン人の割合は、2016年には26%だったのが、2017年には28%に増加したとのこと。
また、失業率も6%から5%へ低下しました。
■治安の改善
麻薬戦争により命を落とした人々が大勢いるのは事実ですが、その結果、確実に麻薬犯罪者は減っています。
地元フィリピン人によれば、以前よりもドラッグ中毒者や麻薬売人が減り、安心して外を歩けるようになってきたとのこと。
日々安全に暮らせる環境へ変わってきたことは、フィリピン国民にとっては大きな変化だったのでしょう。
また、ドゥテルテ大統領がダバオ市長を務めていた頃のファンもいます。
彼は当時、自ら市内をパトロールし、「タタイ(お父さん)」と呼ばれていました。
彼はダバオ市長時代もやはり今と同じように、強権的な姿勢で否応無く犯罪者を抹消し、治安の悪かったダバオを劇的に安全な街へ変えた実績があります。
フィリピン国内全体に関しても、ダバオの時と同様の結果を期待している人々がいるのでしょう。
■病気に怪我・・大丈夫?
上記のような結果を残してきているとはいえ、まだまだ中途半端になったままの課題が数多くあり、ドゥテルテ大統領は残り3年弱の任期でどういった政策を打ち出すのか世界が注目しています。
しかし一方で、最近は彼の健康状態に少し不安があります。
先日は、自身が神経疾患の「重症筋無力症」を患っていることを告白。
治療法のない病気ですが対処は可能で、今のところ問題なく生活は送れるとのこと。
ただ、重症化すると嚥下や発話、呼吸が上手くできなくなるなどの症状が出る可能性もあります。
昨年の調査によれば、フィリピン国民の66%が、「ドゥテルテ氏の健康問題について不安を感じる」と回答していたそうです。
また、そんな持病の告白から程なくして、今度はバイク事故で軽傷を負ったという発表もありました。
こちらもかすり傷程度で心配ないとのことでしたが、その後、背中の痛みを理由に先日日本で行われた天皇即位に際する「饗宴の儀」を欠席して帰国しています。
■残り3年の任期に期待!
麻薬撲滅、対中国関係、インフラ整備、テロ脅威など、まだまだ山積みの問題を抱えているフィリピン。
健康への不安がありながらも、ドゥテルテ大統領は屈することなく任務を全うする姿勢を見せています。
フィリピンは日本からの移住者も多く、これからも成長が期待されている国です。
人口は現在も増え続けており、外国からの投資も増加しています。
次期大統領は誰になるのか?という話題もちらほら浮上していますが、あと3年の間にどのような変革が起こるのか、注目したいところです。