フィリピンで人権擁護活動家など4人が殺害される
フィリピンでドゥテルテ大統領が進める麻薬撲滅政策。
「おかげで麻薬犯罪者が街から減って平和になった」という声も聞かれ、彼の政策を支持する国民が多い一方で、「非人道的」「超法規的殺人だ」「人権侵害」と非難する人々も大勢います。
非難しているのは、主に人権侵害を調査するNGOなどの団体です。
今回、こういったアンチ政府の立場をとっていた人々が次々と殺害され、物議を醸しています。
<事件の概要>
事件が起きたのは、6月15〜17日の3日間です。
国連が、フィリピン政府の「超法規的殺人」の実態を調査すると発表した1週間後のことでした。
フィリピンで人権活動や農民運動などを行なっていた4人の活動家が殺害されました。
■ライアン・フビラ氏(22)
■ネリー・バガサラ氏(69)
フィリピンの代表的な人権NGO組織「カラパタン」のフィリピン人スタッフ。
ルソン島南部ビコル地方ソルソゴン州でバイクに乗った正体不明の男たちから至近距離で銃弾を浴びて死亡。
殺害される前から、軍兵士や警察官から監視されており、正体不明の人物から尾行されていたと言います。
■ノノイ・パルマ氏
ミンダナオ島ブキドノン州の左翼系組織「フィリピン農民運動」指導者。
自宅近くで銃撃されて死亡。
目撃者によれば、1台のバイクに乗った3人の男たちから銃撃を受けており、そのうち1人は地元の民兵だったとう証言もあるようです。
また、パルマ氏はもともと農民の権利擁護を訴えており地元当局から反発を受けていたとのこと。
■ ネプタリ・モラダ氏(45)
「新国家運動」の活動家。
「バヤン・ムナ」という政党で地方幹部を務めていた経験もある人物。
ルソン島南部ナガシ市の自宅からピリ市の事務所へ向かってバイクで走行中、白い車が近づいてきて、銃撃を受けて死亡。
いずれも正体不明の男から銃撃を受けて死亡しています。
<国連への反発なのか?>
これらの連続殺人が行われたのが、国連が「超法規的殺人の実態を調査する」と呼びかけた1週間後であった、という点が物議を醸しているポイントです。
もしかすると殺された活動家たちは、国家警察にとって不都合な真実を知っていたのでしょうか?
フィリピン国家警察は「人権活動家を殺すメリットがわからない」としており、犠牲者と国連の表明の関連性を本格的に調査していく方針のようです。
<人権活動家の殺害は過去にもある>
人権活動家や民主運動家など、政府批判を行なっていた人物が殺されたのは、今回が初めてではありません。
ドゥテルテ大統領が就任してからの3年間の間に、このような人々は実に208人が殺害されていると言います。
また、この数字は純粋に殺人事件の数字だと発表されており、麻薬関連犯罪の捜査に関わる被害者を含めると、もっと多いとされています。
フィリピンでは今、政府を批判する人々や人権擁護を訴える人々は、もはやいつ殺されてもおかしくないのかもしれません。
<調査は一切拒否のドゥテルテ政権>
政府を支持する人も、あるいは人権団体を支持する人も、中立的な視点で麻薬犯罪捜査の実態を調べることは難しいでしょう。
そのため国連は、どちらにも属さない機関による調査をフィリピン政府に求めています。
しかし、ドゥテルテ政権はこれも断固として拒否し、調査という調査は一切受け付けない姿勢です。
また、フィリピンは2019年3月に、オランダの国際刑事裁判所(ICC)からも正式に脱退しています。
ICCが、フィリピンの超法的的殺人について調査を始めたためです。
しかし、ICCは「脱退前の事案については調査できる」と主張し、調査をやめるつもりはないようです。
このフィリピン政府VS国際機関の対立は、現在も続いています。
今回、連続的に人権擁護活動家たちが殺されたことで、国連の人権委員会はさらに実態解明を急ぐ考えです。
しかしながら、フィリピンのサルバドール・パネロ大統領報道官は、「国連は偽りと偏見に満ちた動きをしている」とコメント。
フィリピン政府は一歩も譲るつもりはないようです。
<メディアとの戦い>
フィリピン政府は、報道機関からも強い非難を受けています。
ドゥテルテ批判では特に「ラップラー」は有名です。
しかし、これらのメディアに対しても、ドゥテルテ大統領は強固な姿勢を崩す気はありません。
ラップラーの社長であるマリア・レッサ氏は何度も逮捕されていますし、フィリピンの民放最大手のABS-CBNもまた、閉鎖する危機にあります。
ABS-CBNは、ドゥテルテ大統領の反抗勢力のCMを積極的に流したり、麻薬犯罪撲滅キャンペーンにも批判的な姿勢を見せていました。
これらのことがドゥテルテ大統領の怒りを買い、今回議会下院でABS-CBNの営業認可更新に関わる法案審議を凍結したのです。
このまま7月までに新しい法案が提出されなければ、来年3月にABS-CBNの営業認可は切れる見通しとなっています。
<真相解明は難しい>
国連、人権擁護団体、社会活動家、そしてメディア・・様々な方面から非難を浴びながらも、少しもひるむことなく自身の方針を貫くドゥテルテ大統領。
このような状態を「独裁だ」と指摘する人たちもいます。
国際組織すらも敵に回すというのは、相当なリスクのはずです。
しかし一方で、フィリピン国内ではドゥテルテ大統領を支持する人々が圧倒的に多いことも事実です。
支持率は現在も8割をキープしています。
今まで彼のような、過激だけれど抜本的に問題を解決しようとするリーダーはいませんでした。
自分の命ですら、惜しくないと言っているのです。
どちらが正しいのか?
そして今回の殺人には一体誰が関わっているのか?
真実を暴くのは簡単ではなさそうです。