フィリピンのイスラム教とミンダナオ島
東南アジアで唯一のキリスト教国として知られるフィリピン。
国民の80%はカトリックを信仰していますが、5〜9%の割合でイスラム教徒も存在しています。
今回は、フィリピンのイスラム教事情について、詳しく紹介したいと思います。
<実はフィリピン最古の一神教>
記録が残っている中では、実はイスラム教はフィリピンで最も古い一神教です。
14世紀に南アジアやペルシア湾からムスリムの商人をはじめとするイスラム教信者が渡ってきました。
ミンダナオ島には14世紀に国内初のモスクが作られ、イスラム教はどんどん広まっていきます。
布教していたのはアラブ系の宣教師たちで、初のイスラム王国であるスールー王国も同時期に誕生しました。
その後も、マギンダナオ王国、ラナオ王国といったイスラム教国が次々に作られていきました。
<ミンダナオ島のイスラム教徒>
15世紀までには、ミンダナオ島民のほとんどがイスラム教徒になっていました。
フィリピンといえば、スペイン人の到来によってキリスト教が浸透したことが知られていますが、ミンダナオ島に関してはスペインの征服を逃れ、島民たちは独立を保っていたのです。
その後、何度もスペイン人との攻防を繰り返しながら、最終的に19世紀に支配下に置かれたものの、その範囲はサンボアンガやコタバトといった都市部に限られました。
さらに、1910年にアメリカによる統治が始まってからも、キリスト教徒の入植は続き、だんだんとミンダナオ島でもムスリムは減っていきます。
イスラム教徒 VS キリスト教徒の戦いは1970年まで続き、ついにムスリムは分離独立を求めて「モロ民族解放戦線(MNLF)」を起こし、フィリピン国軍と衝突。
1986年、エドゥサ革命が起こり、ミンダナオ島にムスリム自治区を儲ける「自治基本法」が成立しました。
<「イスラム教徒ミンダナオ自治地域(ARMM)」の住民投票>
政治的対立や混乱を経て、ミンダナオ島の西部・南部の一部では「イスラム教徒ミンダナオ自治地域」(ARMM)に加入するかどうかの住民投票が行われました。
しかし、投票を実施した9市のうち、賛成多数だったのは4州のみ。
形式上は1990年11月に”自治地域”が新設され、首都はコタバト市に設定されました。
その後も、加入都市を増やすために住民投票が再度行われましたが、増えたのは2都市にとどまりました。
また、2006年にARMMによって新しく「シャリフ・カブンスアン州」を発足させましたが、2008年の最高裁で「ARMMには州や市を新設する権限はない」とされ、無効になっています。
<「バンサモロ基本法」が成立>
2019年1月、イスラム教徒による自治政府を認める「バンサモロ基本法」に基づいて、新たに住民投票が行われました。
2018年7月に成立した「バンサモロ基本法」によれば、自治政府は予算の立案、執行権が与えられるほか、イスラム法に基づく司法制度も適用されます。
これにより、長年解決していなかったイスラム主義勢力と政府との対立も解消されていくのではないかと期待されています。
住民投票の結果、ミンダナオ島西部の5州1市、コタバト州の63のバランガイが「バンサモロ・ムスリム・ミンダナオ自治地域」の領域となることが決定しました。
2022年には、正式なバンサモロ政府が樹立される予定となっています。
<ドゥテルテ大統領の考え>
ドゥテルテ大統領は、麻薬撲滅や汚職払拭とともに、イスラム教徒対策を政権の最重要課題に挙げていました。
実は彼自身もミンダナオ島の出身であり、祖母はモロのマラナオ人であることから、イスラム教徒への偏見や先入観はほとんどなく、積極的にイスラム自治政府をサポートする方針のようです。
<フィリピンのモスク>
フィリピンではキリスト教の教会は観光地としてもよく知られているものが多いですが、実はイスラム教のモスクも複数あります。
中でもマニラ市のキアポにある「ゴールデンモスク」は有名です。
毎週金曜日には集団礼拝があり、3,000人にも及ぶイスラム教徒たちが集まります。
そばにはイスラム教徒がたくさん暮らしています。
中に入る際には肌の露出を避け、スカーフを身につけて規範を守ってください。
また、この辺りは治安があまり良くないので明るいうちに行くこと。
その他、イスラム教の本拠地であり昨年テロもあったミンダナオ島のマラウィ市、ルソン島カガヤン・バレー地方のイサベラ州にもモスクがあります。
マラウィには、ISが鎮圧されて紛争が落ち着いた今も、近づくことは出来ません。
イサベラ州は特に観光開発が進んでいる場所ではありませんが、自然公園がたくさんあります。
マニラからアクセス可能です。
<ムスリムのフィリピン人>
ムスリムの人たちってどんなイメージがあるでしょうか?
普段日本にいると接する機会がほとんどないと思いますが、フィリピンではキリスト教徒もイスラム教徒も本質的には変わらない国民性を持っています。
陽気でフレンドリー、歌や踊りが大好き、明るくてのんびり屋といった気質で、一般のフィリピン人と変わりません。
過激派やテロの影響で、イスラム教徒に対して怖いイメージを持っている人も多いようですが、あれはほんの一部のイスラム教徒であって、もともとは決して悪い人たちではないのです。
偏見を持たずに接することが出来ると良いですね。
<宗教はデリケートな要素>
キリスト教、イスラム教のほかにも実はマイナーな宗教がいろいろ混在しているフィリピン。
昨年のようなテロ事件があると、やはり渡航をためらってしまう人も多いかもしれません。
しかし、現在は状況は落ち着いていますし、マニラやセブは今のところ影響がほとんどありません。
ただ、1つ言えるのは宗教は非常にデリケートなイシューだということ。
無宗教な人が多い日本ではあまり実感が沸かないかもしれませんが、海外では宗教は生活の基盤であり人生において非常に重要な役割を果たしているものです。
決してバカにしたり軽視したりしてはいけません。
お祈りの時間に居合わせたら静かに待ったり、宗教がらみのイベントもしっかり意図を理解して参加するなど、敬意を示しましょう。
また、旅行や留学で気をつけたほうが良いのは、テロよりもスリや強盗などの軽犯罪です。
フィリピンの文化や慣習をよく理解して、安全で楽しい旅にしてくださいね。