ミンダナオ島にイスラム教徒の自治政府誕生?
フィリピン国民の80%はカトリック教徒ですが、実は人口の5%はイスラム教徒です。
そしてそのほとんどは南部のミンダナオ島に住んでおり、ミンダナオ島でのイスラム教徒は20%以上となっています。
こういった宗教的に特異な事情があるこの地では、2017年5月には大きな武力衝突も起きています。
「イスラム国(IS)」を信奉する「マウテグループ」とイスラム武装組織「アブサヤフ」のメンバーがマラウィ市を占拠し、フィリピン国軍と激しい戦闘を繰り広げました。
死傷者数は165人を超え、反乱軍は897人が死亡。
多くの犠牲者を出す悲劇となり、人口20万人を抱えていたマラウィは廃墟とがれきが埋め尽くし、変わり果てた姿となってしまいました。
そんなミンダナオ島で、イスラム自治地域とその周辺地域でイスラム教徒による自治を認める「バンサモロ基本法」が2018年7月に制定されました。
そして今月21日には、バンサモロ基本法に基づくイスラム自治政府に、各地域が参加するかどうかを問う住民投票が行われ、話題を呼んでいます。
投票したのは、ミンダナオ自治地域に所属するバシラン州、コタバロ市、北ラナオ州、コタバト州、スルタン・クダラット州などの住民約284万人です。
フィリピンのイスラム教徒は長年、独立と自治を求めて中央政府と戦っていました。
現在に至るまで何度も和平交渉も行われてきましたが、いまだに解決はされていません。
今回「バンサモロ基本法」による自治が実現すれば、イスラム教徒には予算の立案などを含めたさまざまな執行権が与えられるほか、イスラム法に基づく司法制度も導入されます。
これによって武装組織の紛争がなくなり、完全な和平の実現に向かって一歩前進することが期待されます。
ただ、ミンダナオ島内であっても半イスラム教徒はいますし、イスラム教徒の中にも自治政府を持つことに反対している人々もいるので、一筋縄ではいかないことが予想されています。
バンサモロ基本法が成立した背景には、ドゥテルテ大統領のパーソナルな事情も絡んでいると思われます。
「バンサモロ」の「バンサ」はマレー語で国家や民族を示し、「モロ」はイスラム教徒の蔑称です。
フィリピンのイスラム教徒はこの蔑称を中央政府への反抗のシンボルとして残してきました。
ドゥテルテ大統領自身がミンダナオ島出身であること、そして祖母がモロのマラナオ人であったことから、イスラム教徒への偏見などは一切ないようで、むしろ自治政府成立に非常に積極的な態度を示しているのです。
そのため、バンサモロ基本法にも署名し、「モロの人々に対する歴史的不正義を正す」として立ち上がっています。
これはもともと、彼が大統領に就任したときの公約の1つでもあったようです。
バンサモロ基本法は、イスラム武装勢力を抑えてテロを防ぐにも効果的であると考えています。
住民投票の結果はまだ出ていませんが、23日時点で大勢は明らかになっており、主要都市コタバトとマギンダナオなど5つの州で「賛成」が過半数となっているようです。
自治政府の首都になる予定のコタバトでは、キリスト教徒が50%を占めているため、開票結果が注目されていました。
投票日前日にはコタバト市の地裁判事自宅に手榴弾が投げ込まれる事件や発砲事件も起きており、緊迫した状況だったようです。
そんな中、ドゥテルテ大統領は投票の前にコタバトを訪れ、「賛成に投票しなければここにはもう来ない」とコメントしていたとのこと。
その効果もあってか、賛成に投票した住民が多かったようです。
住民投票は、今回の1度目の結果を受けて、2月6日に別の州が投票する2回目が行われる予定となっています。
日本に住んでいると無縁とも思えるテロや宗教問題ですが、フィリピンではすぐ身近で物騒な事件が起きているのです。
現在もミンダナオ島ではショッピングモールで爆弾が爆発する事件が起きたり、自爆テロを行う外国人戦闘員が侵入してくるなど、フィリピンを震撼させています。
ドゥテルテ大統領は麻薬戦争や汚職撲滅などで多少やりすぎとも思える政策を押し進めてきていますが、こういったフィリピンの状況を見れば彼の大胆すぎる行動を理解するのも難しくありません。
彼の真の目的がフィリピン全体の平和であることは、これまでのドゥテルテ政権が出してきた結果を見れば明らかです。
世界中からの評価はどうあれ、国民もきっと彼を理解していることでしょうし、少しでも早くフィリピンを変えてくれることを期待しているのでしょう。
だからこそ高い支持率を維持しているのですね。
また、フィリピンは日本から近い国でもあり、外交関係はかなり良好です。
フィリピンに投資する日本人や日系企業も非常に多い中、今後フィリピンがより安全で平和な国になり、さらなる発展を遂げることは、双方にとって重要な課題と言えるでしょう。