対中国政策で批判の声高まるフィリピン、ドゥテルテ大統領
フィリピンでは、ドゥテルテ大統領の対中国政策について批判の声が高まっているようです。
これまでフィリピンは、中国とは南シナ海問題において中国の主張する管轄権を全面否定し勝利するなど、強硬な姿勢を崩さずにいました。
しかし先週、中国の習近平国家主席がフィリピンを訪問、南シナ海における天然ガスと石油を共同で資源探査する覚書にドゥテルテ大統領がサインしたと言います。
覚書には法的な拘束力はありませんが、中国がこれまで争ってきたフィリピンとの関係において有利な立場に立ったことは間違いありません。
死活問題であるエネルギー資源の確保で、フィリピンが協力的な姿勢を示したことは、中国にとって非常に大きなステップになります。
中国のメディアでもこの件については大々的に報道し、習政権の外交が順調であることを国内外にアピールしています。
今回の会談でドゥテルテ大統領と習近平国家主席は、南シナ海の資源についてのみならず、29に項目に渡る以下のような事柄についても同意し署名しました。
・習首席主導の新シルクロード経済構想「一帯一路」
・マニラ首都圏での水供給のダム建設
・マニラとルソン島を結ぶフィリピン国有鉄道の再建
このような条件に同意したドゥテルテ大統領は、南シナ海問題は一旦棚上げしておき、中国から最大限の経済的支援を受け、遅れているインフラ整備を進めたい考えのようです。
中国側も、双方の違いを一致させ、自国の存在感を強調できることを喜んでいます。
しかし、国民からは「中国に騙されている」という批判が強まっているようです。
なぜなら、中国はこれまでにもフィリピンと様々な約束を交わしたにも関わらず、なかなかプロジェクトが進まないためです。
2016年10月、ドゥテルテ大統領は北京を訪問し、習国家主席と会談した際に27の協定に署名しました。
内容は、中国からの港湾、鉄道、採鉱、エネルギーなどのインフラ整備への150億ドル以上の直接投資、90億ドルの低利融資などです。
約束した支援規模総額は240億ドルに上ります。
しかし、これらの投資プロジェクトは2年経った現在もまだ、ほとんど実施されていません。
しかも、10億ドルの総工費をかけてフィリピンのエネルギー会社と共同で中国の電力会社が水力発電所を建設することで合意していましたが、この件に関しても中国が何度も延期を申し出るなど、まったく実現の兆しが見えなくなりました。
最終的には2017年2月まで延期された挙句、痺れを切らしたフィリピンが契約を中止させたのです。
結局中国と結んだ協定のうち、現実となったのは7,300万ドルの灌漑プロジェクトと、橋梁建設2件のみ。
さらに、実際に中国から投資された金額は、わずか2億ドルのみ。
一体いつになったら約束を守るのか?そもそも実施する気はあるのか?と、国民は苛立ちを隠せません。
フィリピンのベンジャミン・ディオクノ予算長官も、「中国の政治決断は遅すぎる。2年前にフィリピンに約束したすべてのプロジェクトを実行するよう圧力をかけるべき。」とコメントしています。
ドゥテルテ大統領が2016年に就任してから、中国はフィリピンの最大の貿易相手国となり、中国からの直接投資額は20倍に伸びています。
しかし、海外直接投資額では日本、アメリカ、韓国、オランダ、シンガポールには遠く及びません。
現在フィリピンは自国が抱えているプロジェクト80件のうち半分を中国からの経済支援で賄うつもりでいます。
しかし、融資の利率は日本の10倍以上と高利融資。
条件も悪く決断も遅い中国を優先させるメリットは特にありません。
なお、日本は今年11月にマレーシアに2,000億円のサムライ債(日本に居住していない海外の発行体が日本国内市場で募集・発行する円建債券のこと)の経済支援を決めており、その利率は0.65%です。
対する中国の融資利率は6〜7%。
中国は”ソフトローン”と低利融資を主張していますが、実際の数字は日本の10倍で、高利貸しだと批判されています。
しかし、何を考えているのかドゥテルテ大統領は中国の軍事拠点も否定せず、結果的に南シナ海の人工島建設をむしろ後押ししてしまっているのです。
このままフィリピンは中国に”身売り”してしまうのでしょうか?
フィリピンの海域を守り、中国の領有権主張に対し強硬姿勢で臨むよう国民からは批判の声が高まり、圧力がかかっています。
世論調査では、「南シナ海での中国のインフラや軍事拠点開発に反対」が84%、「中国が違法占拠する領土を奪回すべき」が87%、「フィリピンの軍事力拡大が必要」が86%という数字になっていました。
また、ASEAN主導による南シナ海問題の仲介に賛成した人は74%に上ります。
習近平国家主席がフィリピンを訪問した際には、マニラの中国大使館前に何千人ものフィリピン国民が集まり、「中国は南シナ海から出て行け!」とシュプレヒコールを挙げました。
国民の中国に対する信頼度は最低水準を更新しており、逆にアメリカへの信頼度が高まっています。
ドゥテルテ大統領はフィリピンのインフラ整備のためにこのような政策に踏み切ったと思われますが、実際の結果は出ておらず、このままでは支持率の低下も懸念されます。
さらには、中国からの支援が現実となるのかも分かりません。
アメリカの戦略国際問題研究所のポーリング研究員によれば、両国政府が目指す規模には遠く及ばず、今後もプロジェクトの実施は遅れ、貿易・投資パートナーとしては他国に追いつかないだろうと分析しています。
一方で、今年8月にフィリピン政府が発行したサムライ債は、日本の投資家の需要が高く、想定した10億ドルを大きく上回って1,542億ドルとなりました。
中国が失速しかけている今、日本はフィリピンへの支援を拡大し、存在感をアピールするチャンスと言えるかもしれません。
2019年5月にはフィリピン大統領選の中間選挙が行われます。
ドゥテルテ大統領がこの2年間で築いてきたものがどのような結果をもたらすのか?
本人はもちろんのこと、フィリピン国民、そして世界が悶々としながら目撃することになりそうです。