フィリピンに麻薬が蔓延している理由とは?
フィリピンのドゥテルテ大統領による「麻薬戦争」は近年たびたび物議を醸していますが、そもそもフィリピンにはどうして麻薬が蔓延しているのでしょうか。
麻薬が存在していることが原因でフィリピンの治安はいつまでも改善せず、それが海外からの投資を遠ざけ、国の発展を遅らせていることは間違いありません。
麻薬中毒者や常習犯を殺害するのではなく、麻薬そのものを根絶することが最善の方法だと思われますが、なかなかそれが進まない理由がありそうです。
<フィリピンは麻薬の中継地点>
まず、フィリピンに麻薬が蔓延している理由として、この国が麻薬が運ばれるルートの中継地点になっていることが挙げられます。
フィリピンは、東南アジアや東アジア、オセアニアに供給される覚せい剤の通り道なのです。
フィリピンにある麻薬関連組織が中国や北朝鮮、メキシコなどの海外の組織と繋がっており、小さな島々でマリファナが栽培され、覚せい剤の製造工場も造られています。
簡単に麻薬が手に入る環境ができてしまっているのです。
<麻薬製造を牛耳っている権力者たち>
このように麻薬の栽培や製造を牛耳っているのは、フィリピンの警察、権力を持った政治家、富豪たちだと言われています。
フィリピンではお金があれば罪を犯しても解放されるシステムがあります。
権力者たちは金にモノを言わせて警察たちをコントロールしているのです。
ドゥテルテ大統領は麻薬撲滅とともに警察官の汚職を一掃すると約束していますが、彼でも手が回らないほど多くの汚職が行われています。
<麻薬が育つ環境>
フィリピンがもともと持っている気候条件や環境が、麻薬の栽培を促進している部分もあります。
ちょうど中継地点であるフィリピンは、植物が簡単に早く育つ暖かな気候です。
しかも、そんな麻薬の栽培が行われている土地の所有者は権力者たちです。
もちろんフィリピンの警察も麻薬が栽培されている事実は認知していますが、お金を受け取って見て見ぬフリをしているという現状があります。
あまり明るみには出ていませんが、セブを含めフィリピンのそこかしこにマリファナ畑が存在しているのです。
<なぜ貧困層に麻薬は広まるのか?>
通常、麻薬というのは高額で取引されています。
それなのに、なぜお金を持たないフィリピンの貧困層の間で常習者が増えるのでしょうか。
その理由は、フィリピンの雇用が足りていないことに起因しています。
フィリピンでは現在人口が急激に増えていますが、彼らをみんな働かせるだけの雇用口がありません。
治安が悪く外国企業の参入が遅れており、他の東南アジア諸国のように大量の雇用を生み出す工場などがまだ足りていないのです。
まともに学校にも行けず学歴を持たない貧困層は、結局「麻薬の運び屋」という仕事で金銭を得ようとします。
いつも身近に麻薬がある環境で、手を出す機会も増えてしまうというわけです。
かつてケソン市のホープ村で行われた麻薬の実態調査によれば、12,000世帯9万人の村民のうち、3割にあたる27,000人がマリファナやシンナーといった何らかの薬物を使用していたそう。
彼らは、ドラッグによって空腹を忘れ苦しみを紛らわせようとしています。
他に何の娯楽もないため、小さな子供も含めて貧困層の間には麻薬がどんどん蔓延します。
そしてそんなストリートチルドレンたちも含めて、「麻薬戦争」の大義名分によって多くの殺害が起こってしまっているのです。
<海外からの投資が増えない理由>
このような悲劇をこれ以上増やさないためには、まず雇用の創出が重要課題になります。
フィリピンに仕事がない理由は、外国企業の投資が遅れているためです。
もっと多くの企業がフィリピン市場に参入し、たくさんの雇用を生み出してくれれば、麻薬密売という闇の仕事に手を染める貧困層も減るはずなのです。
しかし、簡単にはこの状況を変えられない理由があります。
■治安だけじゃない
フィリピンに外国企業がなかなか入ってこない最大の理由は治安の悪さですが、実はそれだけではありません。
フィリピンの財閥が、独占している権益を手放さないことが大きな原因となっています。
彼らの抵抗勢力が大変強く、規制緩和がなかなか進まないため、外国企業が参入しづらい環境なのです。
■農地が解放されていない
フィリピンの広大な農地を所有しているのも財閥です。
そこで「小作農」として人々を働かせ、30〜70%、ひどい場合だと90%もの作物を納めさせているケースがいまだにあります。
財閥にとって農地は貴重な収入源ですので、手放す気はありませんし、農地解放は進みません。
もしも農地が解放され、搾取がなくなり、人々がもっと自由に農業ができるようになれば、農村の貧困も解消されるでしょう。
<ドゥテルテ大統領はどう動くのか?>
麻薬戦争によって治安を改善し、警察の汚職を払拭しようとさまざまな策を講じているドゥテルテ大統領ですが、これまでの動向を見ている限りでは、問題解決は一筋縄ではいかなさそうです。
麻薬と政治家、財閥が密接に繋がっている限りは根本的な解決は難しいでしょう。
ダバオ市長を務めていた時のようにあっさりと治安を改善することを国民は期待していたかもしれませんが、一方で罪のない人々の命がたくさん奪われていることも無視できません。
大多数を救うためには犠牲も致し方がないという理論もありますが、果たしてそれが本当に正義なのかも問われています。
麻薬、政治汚職、倫理・人権問題、貧困、治安、雇用・・・今後ドゥテルテ大統領がこの複雑に絡み合う様々な問題をどのように取り扱っていくのか、世界中が期待と不安の眼差しで見ているのではないでしょうか。