麻薬撲滅の取り組みは失敗?非難される国連とフィリピンの政策
2016年に就任したフィリピンのドゥテルテ大統領。
彼はかつて市長を務めていたダバオを安全な街へと変えたように、フィリピン全体も大きく変化させる人物として国民から期待されています。
ドゥテルテ大統領によれば、フィリピンの治安を乱し、国民に不幸をもたらしているのは麻薬。
フィリピンはかねてから麻薬の使用者が後を絶たず、麻薬に関連した犯罪が横行しています。
フィリピンの治安を悪化させ、多くの人々の命を奪っているのは、確かに麻薬や違法薬物なのです。
ドゥテルテ大統領は、フィリピンから麻薬を撲滅させるべく立ち上がりました。
麻薬がなくなれば、国に平和と幸福が訪れると信じているからです。
しかし、ドゥテルテ大統領の麻薬撲滅の手法は、少々手荒なものでした。
彼の政権下で2016年〜2018年の間に、治安当局の麻薬捜査で殺害された人間の数は、なんと約27,000人に及んでいます。
そして、2017年の1年間で検察がその殺人容疑者を起訴したのは、わずか17件だったそう。
フィリピンの司法手続きに疑問が呈されています。
また、麻薬撲滅対策に対するドゥテルテ大統領の発言も、多方面から問題視されています。
2016年の施政方針演説では、「国民は身の周りに麻薬犯罪者がいたら殺すべき」などと述べており、このような”超法規的殺人”が政府によって組織的に行われていることはやはり世界中から非難の対象となりました。
このような事例を受けて、国際薬物政策コンソーシアム(IDPC)は、国連が過去10年間に渡って取り組んできた違法薬物に対する取り締まりは失敗しているとして、政策をもう一度考え直すことを求めています。
国際薬物政策コンソーシアム(IDPC)は、薬物政策や薬物乱用に関する非政府組織(NGO)で、世界177の拠点とネットワークを持っています。
世界の麻薬生産や流通、消費について調査を行なっている組織です。
IDPCが発表した報告書によれば、国連が2019年までに違法薬物の市場を撲滅するという計画について、世界が求めているレベルには達していないことを指摘しています。
また、健康、人権、治安、開発などに影響を及ぼしているとのこと。
さらに、過去10年間で薬物に関連して亡くなった人は、145%も増加していることを同時に指摘。
アメリカでは、2017年だけで71,000人以上が薬物の過剰摂取で死亡しているといいます。
また、世界では過去10年間で3940人以上が薬物の関連する犯罪で処刑されています。
世界のアヘン栽培量は過去10年間で2.3倍に増加、コカインは3割増加しているそうです。
国連麻薬委員会は2009年に「新国連薬物乱用根絶宣言」を掲げていましたが、このような結果を見れば、取り締まりは失敗に終わったと言わざる得ません。
犯罪を食い止めるのみならず、まずは麻薬の栽培から根絶できるように対策を見直す必要があるでしょう。
IDPCは国連麻薬特別総会に対し、このようなさまざまなネガティブな結果を受けて、今後10年はこれまでとは異なる対策を講じるよう求めています。
2019年3月に、オーストリアのウイーンで国連麻薬特別総会の会合が行われる予定となっています。
しかしIDPCは、次の会合でもこれまでと同じ政策が承認される可能性が高いと予想しており、それは国連の職務怠慢であると苦言を呈しています。
現在のやり方では、薬物規制と称してさらに死者が増えてしまうことでしょう。
メキシコでは2017年、麻薬関連の暴力が拡大した影響で、殺人件数が過去最高を記録しています。
暴力=薬物利用の犯罪とみなす政策がはびこっていることから、収監される人々の数がどんどん増えていると言います。
受刑者のうち、5人に1人は麻薬犯罪によって服役しており、ほとんどは個人利用の薬物の所持で起訴されています。
フィリピンでも現在、刑務所は過密状態。
蒸し暑く窓もない不衛生な環境で、収容人数800人のところに3,400人以上の受刑者が収容されています。
タイやミャンマーなど他のアジア地域でも刑務所の慢性的な過密状態が続いていますが、中でもフィリピンは最も過密していて、占有率が316%にまで上っているそう。
ろくに眠ることもできず、病気に感染するリスクも大きく、受刑者同士でのトラブルも絶えないような環境で、去年7月には汚染水からコレラが発生したこともあります。
十分な広さが確保できないため、監房には鍵がかけられません。
受刑者たちは階段や教室、あるいはバスケットコートで寝ることも珍しくないそうです。
しかし、収容されている人々はこのような劣悪な環境でも、外にいて殺されるよりはマシだと話します。
「警察は打ちたければ打ってくる」から、監獄の方が安全なのだと。
フィリピン警察によれば、正当な捜査で麻薬容疑者だけに発砲していると説明していますが、実際、多くの住民によって何の罪もない人々も巻き込まれていることが明らかになっています。
また、取り締まりの対象になっているのは貧困層の犯罪者のみで、富裕層の麻薬密売人は逮捕を逃れているという批判もあります。
果たしてドゥテルテ大統領の選択したこの方法は正しいものなのか?
そして世界は麻薬から脱却することができるのか?
日本ではそれほど目立たない麻薬関連犯罪ですが、フィリピンを含め世界中で人の命や人権をめぐる問題が起きていることを、私たちも知っておくべきではないでしょうか。